事業承継税制の「出口リスク」徹底検証 ― 猶予は本当に安全か

税理士
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事業承継税制は、非上場株式等の相続税・贈与税を大幅に猶予できる強力な制度です。特例措置のもとでは、一定割合の株式について税額の全額が猶予対象となり、事実上の免除に至る可能性もあります。

しかし、猶予はあくまで「条件付き」です。要件を満たし続けられなければ、猶予税額は一括で確定します。極めて高い水準の所得に対する負担適正化措置の強化により、内部留保が積み上がり株価が高止まりする局面では、猶予税額そのものが高額化しやすくなります。

本稿では、事業承継税制の“出口リスク”を正面から整理します。


猶予制度の本質 ― 税金は消えていない

事業承継税制は納税を猶予する制度であり、条件を満たし続けることを前提としています。形式的には税額が確定し、納付が猶予されている状態です。

したがって、

・猶予税額は潜在的債務である
・将来の経営判断に影響を与える

という性格を持ちます。

特に株価が高い状態で承継した場合、猶予税額は巨額になります。これは財務上は表に出ませんが、経営上は常に意識せざるを得ない存在です。


出口リスク① 要件不充足による打切り

代表的なリスクは、要件を満たせなくなることです。

主な論点

・後継者が代表者でなくなる
・一定の雇用要件を満たせなくなる
・対象株式の保有要件を満たせなくなる

景気後退や業績悪化により雇用維持が困難になるケースは現実的です。雇用調整を行えば猶予が打ち切られる可能性があり、経営合理性と税務要件が衝突する局面が生じます。


出口リスク② 組織再編・M&Aとの衝突

企業が成長戦略として組織再編やM&Aを行う場合、株式の移転や支配構造の変化が生じます。

・第三者への株式譲渡
・持株会社化
・合併や株式交換

これらの行為は、承継税制の適用要件と整合しない場合があります。

特に、承継後に外部資本を導入する場合や、最終的にM&Aで売却する場合には、猶予税額が確定する可能性が高まります。

事業の成長と制度維持の両立は必ずしも容易ではありません。


出口リスク③ 株価下落と心理的負担

猶予税額は承継時の評価額を基準に計算されます。

その後、業績悪化や市場環境の変化により株価が下落した場合でも、猶予税額は原則として変わりません。

つまり、

・評価額は高い時点で固定
・その後の株価下落は考慮されない

という構造になります。

結果として、「会社価値が下がっているのに、過去の高い評価額に基づく税額を背負う」という心理的・経営的負担が生じます。


出口リスク④ 内部留保と猶予税額の膨張

内部留保を積み上げた状態で承継すると、純資産価額が高くなり、猶予税額も高額化します。

その後、

・成長投資が失敗する
・収益性が低下する

といった事態が起きれば、高額な猶予税額と低収益体質が併存する構造になります。

これは後継者にとって大きな経営制約となります。


出口戦略をどう設計するか

出口リスクに対応するためには、次の視点が重要です。

1. 承継時の株価水準の慎重な見極め

株価が過度に膨張している局面での承継は、将来リスクを増幅させます。評価時点の財務構造を精査する必要があります。

2. 成長戦略との整合性確認

将来的に外部資本導入やM&Aを想定している場合、制度維持との整合を事前に検討することが不可欠です。

3. 納税資金確保のバックアップ設計

万一猶予が打ち切られた場合に備え、

・資産の流動性確保
・保険活用
・金融機関との関係構築

といった備えが重要になります。


制度依存の危うさ

事業承継税制は強力な制度ですが、「制度があるから大丈夫」という発想は危険です。

制度は政策変更の影響を受けます。要件の見直しや適用期限の変更が行われれば、前提条件が揺らぎます。

また、後継者の経営判断が制度維持を優先するあまり、合理的な経営判断を遅らせる可能性もあります。


結論

事業承継税制は、非上場株評価が高騰する局面において有効な対応策ですが、猶予税額は将来に持ち越された潜在的負債です。

要件不充足、組織再編、株価変動、内部留保の膨張といった出口リスクを正面から検討しなければ、制度は安全網ではなく制約要因になります。

極めて高い水準の所得に対する負担適正化措置の強化が、配当政策や留保水準を通じて株価を押し上げる可能性がある以上、承継設計はより一層慎重な総合判断が求められます。

制度を活用することと、制度に縛られないこと。この両立が、今後の実務上の重要課題です。


参考

税のしるべ「極めて高い水準の所得に対する負担適正化措置の適用がある場合の申告書等の記載例を公表」2026年2月23日
自由民主党「令和8年度税制改正大綱」2025年12月公表
国税庁「非上場株式等に係る納税猶予制度の概要」最新版

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