米連邦最高裁の違憲判決を受け、米国の相互関税は法的に無効と判断されました。
一方で米政権は、1974年通商法122条を根拠に、世界一律10%の追加関税を150日間限定で発動するとしています。
ここで注意すべきは、企業実務が直面するのは「関税が下がる/上がる」という話だけではない点です。
焦点は、過去に徴収された関税が戻るのか、戻るとしてもいつ戻るのか、そしてその過程が法廷闘争として長期化する可能性が高いことです。
本稿では、先に整理した会計処理論点を踏まえつつ、今回の記事が示す新たな前提条件を織り込み、会計・監査・内部統制の観点から補足します。
1.「還付が確定しない」期間が長いこと自体が論点になる
最高裁判決は、徴収済み関税の還付について明確に判断を示していません。
トランプ氏は還付に応じない姿勢を示し、「法廷で争う」旨を述べています。
この状況は、会計処理において最も重要な前提を変えます。
つまり、企業は当面「還付があるかもしれないが、確定していない」状態で決算を繰り返すことになります。
会計上は、確定していない還付は収益計上できません。
ここでの基本は次の整理です。
- 還付の見込みがあっても、確定するまでは原則として資産計上・収益計上はしない
- 開示の要否は重要性と蓋然性で判断する(偶発資産、後発事象の検討対象)
この“確定の遅れ”が、開示と監査対応の主戦場になります。
2.徴収済み金額が大きいほど、開示・監査の圧力が高まる
記事では、米税関当局による徴収済み金額が25年末時点で1200億ドル超と示されています。
日本企業側も年2.9兆円規模の負担が注視され、すでに複数社が提訴しているとされています。
金額規模が大きいほど、企業が直面する論点は「処理」より先に「説明」になります。
- どの関税が違憲判決の対象で、どれが対象外か
- 対象となる支払額はどれくらいか
- 顧客への転嫁分(サーチャージ等)と自社負担分の内訳はどうか
- 返還があった場合の帰属(自社が受けるのか、顧客等に返すのか)はどう整理するか
ここが曖昧だと、会計処理以前に、開示と監査で詰まります。
3.「還付があるかも」の段階で必要になる社内データ整備
還付が長期化する場合、最も危険なのは「後から証拠が揃わない」ことです。
関税還付は、過年度にさかのぼるほど、取引証憑・通関書類・インボイスの所在確認が難しくなります。
最低限、社内で先に整えるべきは次の台帳です。
- 対象関税の支払一覧(品目、輸入日、申告番号、支払額、通関業者等)
- 対象関税が含まれる棚卸資産の流れ(在庫→販売→原価化の追跡)
- 価格転嫁の記録(サーチャージ、価格改定、契約条項、顧客別対応)
- すでに提訴・申立てを行った案件の進捗と論点メモ
会計処理は「還付確定時」に行いますが、データ整備は「確定前」にしかできません。
4.代替10%関税が意味する「二重の期間管理」
今回の新情報で、企業実務は二つの時間軸を同時に管理する必要が出ます。
- 過去:違憲とされた相互関税等の支払分(還付の可能性があるが不確定)
- 現在:122条による一律10%関税(150日限定で新たに発生)
ここで重要なのは、関税コストが「過去の戻り」と「現在の発生」で混在し、財務影響が読みにくくなる点です。
決算では少なくとも次の区分が必要になります。
- 122条10%で発生した当期関税(通常どおり取得原価へ)
- 違憲対象分のうち、還付が確定したもの(確定時点で原価修正または当期損益)
- 違憲対象分のうち、係争中のもの(原則として未計上、開示検討)
“関税”という同じ言葉でも、根拠法とステータスが違うため、社内説明資料はここを丁寧に分ける必要があります。
5.還付が出た後に起きる「二次トラブル」を先に見積もる
関税還付は、入金で終わりません。
むしろ、入金後のほうが揉めやすい論点があります。
代表例は、価格転嫁をしていた場合です。
- 顧客に上乗せしていた分まで還付を受けたとき、顧客から精算を求められる可能性
- 取引先との契約条項に「税負担の変動時は調整する」旨がある場合の再交渉
- 過年度の利益率が変わり、移転価格の整合性が崩れる可能性
つまり、還付金は「企業の利益」ではなく「精算の原資」になるケースがあり得ます。
その場合、会計処理としても雑収入計上で片付かず、返金義務や将来の調整見込みの評価が論点になります。
結論
今回の記事が示した最大のポイントは、関税還付が「近い将来の確定収益」ではなく、長期係争を伴う不確実なイベントになり得ることです。
同時に、代替10%関税が当面続くことで、企業は「過去の戻り」と「現在の発生」を同時管理する局面に入ります。
したがって実務対応は、会計仕訳の検討より先に、次の順序が合理的です。
- 対象範囲の確定(根拠法・品目・期間で切り分け)
- 支払額と通関証憑の台帳整備(後から追えないリスクを先に潰す)
- 価格転嫁と契約条項の棚卸(還付後の精算リスクを見積もる)
- 開示・監査対応の設計(偶発資産、重要性、後発事象の方針化)
関税還付は「利益」ではなく「プロジェクト」になります。
長期戦を前提に、証憑・契約・説明資料を先に整えることが、結果として会計・税務・訴訟対応を最も安くします。
参考
日本経済新聞
・米代替関税、24日から10% 最高裁が相互関税に違憲判決(2026年2月22日朝刊)
・日本企業、2.9兆円注視 トランプ相互関税に違憲判決(2026年2月22日朝刊)
・米株市場、判決を好感(2026年2月22日朝刊)
・米最高裁、野放図な権限拡大に警鐘(2026年2月22日朝刊)
・対米投融資は継続 日米合意、前提揺らぐ(2026年2月22日朝刊)
・EU、米関税の影響探る(2026年2月22日朝刊)

