簡易課税制度は「ギャンブル」か――東京地裁判決が示した制度選択の重み

税理士
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消費税の簡易課税制度は、中小事業者の事務負担を軽減するための制度です。

しかし、いったん選択した制度が思わぬ税負担をもたらした場合、その選択を「合理性を欠く制度だった」と主張することはできるのでしょうか。

令和7年1月21日、東京地裁は、簡易課税制度の適用を巡る納税者の主張を退け、課税庁の更正処分を適法と判断しました。本稿では、この判決の内容と実務上の示唆を整理します。


事案の概要

本件は、各種車両の鈑金・塗装業を営む株式会社が、令和3年8月から令和4年7月までの課税期間について本則課税で申告したところ、課税庁が簡易課税制度を適用して更正処分を行ったという事案です。

会社は過去に簡易課税制度選択届出書を提出していました。
また、本件課税期間の基準期間における課税売上高は約2,908万円であり、5,000万円以下でした。

さらに、課税期間開始日の前日までに「選択不適用届出書」は提出されていませんでした。

そのため、形式的要件を満たす以上、簡易課税制度が適用されると課税庁は判断しました。


納税者の主張

納税者側は、次のような主張を行いました。

  • 選択届出は当時の顧問税理士が行ったものであり、自社はその存在を認識していなかった
  • 簡易課税制度の適用通知はe-Taxのメッセージボックスのみで行われ、技術的に確認が困難であった
  • 売上の急減という予測不能な事情があった
  • 課税期間開始前に選択を迫る制度は「ギャンブル的判断」を強いるもので合理性を欠く

そして、簡易課税制度の適用は租税公平の原則に反すると主張しました。


東京地裁の判断

東京地裁は、納税者の主張を退けました。

判断のポイントは極めて明確です。

  1. 適法に選択届出書が提出されている
  2. 基準期間の売上高が5,000万円以下である
  3. 不適用届出書が期限内に提出されていない

以上の事実が認められる以上、法律の要件を満たしており、簡易課税制度は当然に適用されるとしました。

また、裁判所は次のようにも述べています。

  • 簡易課税制度は事務負担軽減が趣旨である
  • 課税期間終了後に有利・不利で選択を変更することまでは許容していない
  • 本則課税より税額が高くなったとしても、それは選択の結果にすぎない

したがって、「ギャンブル的制度で合理性を欠く」との評価はできないと判断しました。


判決の実務的意味

この判決が示しているのは、制度選択の自己責任原則です。

簡易課税制度は、

  • 事前選択制であること
  • 原則として2年間は継続適用されること
  • 期限内の届出が絶対的要件であること

といった明確な制度設計のもとに運用されています。

売上の増減や経済環境の変化があったとしても、それは制度の合理性を否定する理由にはならないという整理です。


「ギャンブル」ではなく「制度設計」

確かに、売上や仕入構造の変化によって、本則課税と簡易課税の有利不利は変動します。

しかし、それは税制が不合理というよりも、

  • 事務簡素化とのトレードオフ
  • 安定的な制度運営
  • 恣意的選択の排除

という観点から設計されている結果です。

もし課税期間終了後に自由に選択できるとすれば、すべての事業者が「有利な方」を選び、制度の公平性は崩れます。

裁判所はこの点を明確にしました。


実務上の最大の教訓

本件で最も重い教訓は、過去の届出状況の把握です。

特に、

  • 昔に提出した選択届出の存在
  • 顧問税理士の変更後の引継ぎ状況
  • e-Taxのメッセージ確認体制
  • 不適用届出の期限管理

これらの管理体制が極めて重要であることを改めて示しています。

簡易課税は「有利なときだけ使う制度」ではありません。
選択した以上、その枠組みの中で税額が決まります。


結論

東京地裁は、簡易課税制度が「ギャンブル的」で合理性を欠くとの主張を退け、制度の明確な法的要件に基づき適用を認めました。

この判決は、消費税実務において

  • 届出管理の重要性
  • 制度選択の責任
  • 事後的有利選択の否定

を改めて確認したものといえます。

消費税は税額が大きくなりやすく、制度選択の影響も重大です。

だからこそ、
「選択したつもりがない」
「知らなかった」

という事態を防ぐための管理体制こそが、最大のリスク管理となります。


参考

税のしるべ
2026年2月16日号
簡易課税制度の適用巡り納税者敗訴の地裁判決
令和7年(行ウ)第207号 東京地方裁判所判決(2026年1月21日)

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