AI時代の相続税申告で注意すべきポイント― 調査は「人が来る前」から始まっている ―

税理士
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相続税調査は、すでにAIを活用した事案選定の時代に入っています。
国税庁は、申告書の内容だけでなく、さまざまな保有データを分析し、調査の要否を判断しています。

ただし、重要なのは「AIにどう見られているか」を意識することではありません。
AI時代だからこそ、人がどこまで準備できているかが、申告の質を左右します。

本記事では、AI活用が進む中で、相続税申告において特に注意すべきポイントを整理します。

AIは「申告書単体」を見ていない

AI時代の最大の変化は、申告書だけを見て調査選定が行われていない点にあります。

相続税申告書は、
・過去の所得税申告
・財産取引に関する各種情報
・金融機関等から提供される資料
などと突合され、立体的に分析されます。

申告書としては整っていても、
他の情報と組み合わせたときに違和感が生じれば、確認対象になります。

「例年どおり」は通用しない

実務では、「これまで問題なかったから今回も大丈夫」という判断が行われがちです。
しかし、AI活用が進む中では、この考え方はリスクになります。

・過去は確認されなかった
・他の相続では指摘されなかった
という事実は、将来の安全を保証しません。

分析手法が高度化することで、
これまで見逃されていた論点が可視化される可能性が高まっています。

注意点① 名義と実質の説明を用意する

AIが特に力を発揮するのが、名義と実質のズレを探る分野です。

・名義は配偶者や子
・原資は被相続人
・管理は被相続人
といった典型的なパターンは、複数の情報から浮かび上がります。

重要なのは、
「名義が誰か」ではなく、
「なぜその名義なのか」を説明できるかどうかです。

注意点② 財産の増減にストーリーを持たせる

AIは、時系列データの分析を得意とします。
預金残高の推移や資金移動の履歴は、機械的に整理されます。

そこで問われるのが、
・なぜ減ったのか
・なぜ増えたのか
というストーリーです。

単なる数字の羅列ではなく、
生活費、医療費、贈与、投資など、合理的な説明ができるかが重要になります。

注意点③ 評価の根拠は「後から説明できるか」

土地や非上場株式など、評価判断が難しい財産については、
申告時点では問題にならなくても、後日確認される可能性があります。

AI時代では、
「評価額が相場から外れている」
「類似事例と差がある」
といった点が抽出されやすくなります。

評価を下げること自体が問題なのではなく、
その評価を第三者に説明できるかが問われます。

注意点④ 形式的な書類では足りない

贈与契約書や金銭消費貸借契約書など、書類の形式が整っていても安心できません。

・実際の資金移動
・管理状況
・当事者の関与
が伴っていなければ、実質で判断されます。

AI時代では、
「書いてあること」よりも
「実際に起きていること」が重視されます。

AI時代でも最後に判断するのは人

誤解されがちですが、AIが自動的に調査を行うわけではありません。
最終的に判断するのは調査官です。

しかし、AIによって
・疑問点が明確化され
・確認すべきポイントが絞られた状態
で人が動くため、従来よりも鋭い調査になりやすいのが実情です。

つまり、
「AIに見つかるかどうか」ではなく、
「人に説明できるかどうか」が最終的な分かれ目になります。

結論

AI時代の相続税申告で求められるのは、完璧な申告書ではありません。
求められているのは、
・事実関係が整理されていること
・数字に理由があること
・説明可能な申告であること
です。

相続税申告は、提出した瞬間で終わる手続ではありません。
将来の確認を前提に、説明できる申告を意識することが、AI時代の最大の対策といえます。


参考

・税のしるべ「6事務年度の相続税調査状況、追徴税額は12.3%増の962億円」(2025年12月22日)
・国税庁「相続税の調査状況に関する公表資料」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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