設備投資促進税制を読み解く(第5回・最終回)

政策
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先日、日経新聞の朝刊に「減価償却費を一括計上設備投資促す」という記事が載っていましたので、今回もこの記事について、考えていきたいと思います。

今回で「設備投資促進税制を読み解く」シリーズは最終回となりますので、もうしばらくお付き合い願います。

1.2040年「200兆円投資」目標の意味

政府は2040年度に、国内の設備投資を2024年度比で約2倍の200兆円に引き上げる目標を掲げています。
背景には、生産性向上と付加価値創出によって「持続的な賃上げ」を実現したいという狙いがあります。
しかし、これは単なる数字の話ではなく、私たち一人ひとりの雇用・給与・生活の安定に直結する課題です。

2.設備投資がもたらす波及効果

設備投資が増えると、次のような好循環が期待されます。

・生産性向上
 →賃上げ余力の拡大
 工場やITシステムの導入により人件費あたりの付加価値が高まる。

・雇用の維持・創出
 国内での投資が増えれば、関連産業や地域の雇用が安定。

・技術革新と地域経済の底上げ
 スタートアップや中小企業への投資も広がれば、新しいサービスや産業が生まれる。
 一方で、投資が大企業に偏れば格差が拡大し、地域経済の空洞化を招くリスクもあります。

3.財源と政治の壁

制度を恒久化すれば、当然ながら財政負担は増えます。
米国やドイツでも同じ課題を抱えていますが、日本はすでに国債残高がGDPの2倍を超える状況。
「減税で企業を支援する一方、社会保障の財源をどう確保するか」というトレードオフに直面します。

また、与党が参院選で敗北していることから、野党との合意形成は必須。
政治的な不安定さが、企業の投資判断を鈍らせる可能性もあります。

4.私たちの暮らしにどう関わる?

一見すると「企業向けの話」に思えるかもしれませんが、暮らしの現場には次のように影響してきます。

・給与・ボーナスへの波及
 設備投資が生産性を押し上げれば、持続的な賃上げにつながる。

・地域の仕事の有無
 工場やオフィスの国内投資が増えれば、地域経済に直接恩恵が広がる。

・家計と投資
 設備投資によって企業が成長すれば、株式市場や年金の運用成績にもプラスに働く。

逆に、制度が一部の大企業にしか活用されず、中小企業や地域経済に波及しなければ、思恵は限定的にとどまってしまいます。

5.今後のシナリオ

現実的には、次の2つのシナリオが考えられます。

・シナリオA:制度が定着し、国内投資が拡大

 設備投資が地域経済に波及し、賃上げと雇用安定につながる。

・シナリオB:制度が一部企業に偏り、財政圧迫が深刻化

 格差拡大や財源問題が浮上し、持続可能性を欠く。

どちらに転ぶかは、「中小企業・スタートアップをどこまで巻き込めるか」と「政治的合意形成」にかかっています。
「即時償却」と「税額控除」を組み合わせた投資促進税制は、企業にとって初年度のキャッシュフロー改善という強力な武器です。

しかし、その成果を「暮らしの安定」「持続的な賃上げ」へとつなげられるかどうかは、制度の運用次第。
私たち生活者にとっても、これは給与・雇用・資産形成に直結するテーマです。

次に注目すべきは、年末に向けた税制改正大綱で「この制度がどこまで実現するか」でしょう。

ということで、今回は以上とさせていただきます。
全5回に渡って、お付き合いいただき、ありがとうございました。

次回以降も、引き続きよろしくお願いいたします。

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