先目、日経新聞の朝刊に「減価償却費を一括計上設備投資促す」という記事が載っていましたので、前回に引き続き、今回もこのことについて、考えていきたいと思います。
1. そもそも「即時償却」と「税額控除」の違い
新しい投資促進税制の柱は「即時償却」と「税額控除」の2つです。
一見似ていますが、仕組みはまったく異なります。
・即時償却
投資した資産の金額を初年度に全額経費として計上できる。
→ 課税所得を一気に圧縮する効果。
・税額控除
投資額の一定割合を、法人税額から直接差し引ける。
→利益が出ていれば、税金そのものを減らす効果。
両者を併用できれば、キャッシュフロー面で大きなメリットが生まれます。
2.大企業の場合:工場建設シナリオ
仮にある製造業大手が 100億円の工場建設をしたとしましょう。
法人税率は30%と仮定します。
・通常の減価償却(耐用年数10年)
→ 初年度は1/10の10億円を経費に。利益圧縮効果は10億円✕30%=3億円の節税。
・即時償却を導入
→ 初年度に100億円を経費に。利益圧縮効果は100億円✕30%=30億円の節税。
・さらに税額控除(例:投資額の5%控除)を併用
→ 100億円✕5%=5億円を法人税から直接控除。
結果、初年度は30億円+5億円-3億円=32億円の税負担軽減となり、初年度から大幅に資金余力が生まれます。
3.中小企業の場合:ソフト投資シナリオ
一方で、中小企業やスタートアップにとっては「数千万円単位の投資」が現実的です。
例えば新しい生産管理ソフト(3,000万円)を導入した場合を考えてみましょう。
・通常の減価償却(耐用年数5年)
→ 初年度の経費は600万円。節税効果は600万円✕30%=180万円。
•即時償却
→ 3,000万円を一括計上。節税効果は3,000万円✕30%=900万円。
・税額控除(5%と仮定)
→ 3,000万円✕5%=150万円を税額控除。
結果、初年度は900万円+150万円-180万円=870万円の税負担軽減。
これは中小企業にとっては資金繰り改善に直結し、新規雇用や追加投資の余力を生む可能性があります。
4.税制効果のポイントと限界
シミュレーションから見えてくるのは、次の2点です。
① 初年度キャッシュフローに効く
税負担が一気に軽減されるため、投資直後の「資金繰りの谷」を乗り越えやすくなる。
② 黒字企業でないと効果が薄い
税額控除は「法人税が発生していること」が前提。
赤字企業や利益の少ない企業には十分なメリットが出ない。
5.我々にとっての意味
「大企業だけの話」と思いがちですが、中小企業・スタートアップでも利用できれば、
・DX(デジタルトランスフォーメーション)投資
・工場の自動化
・人材育成に伴うシステム導入
といった場面で資金繰りを助ける切り札になり得ます。
結果として地域経済の底上げや、雇用の安定につながることが期待されます。
即時償却と税額控除は「初年度キャッシュフローに直結する強力な支援策」です。
ただし、その恩恵を受けられるのは「投資を決断できる余力のある企業」に限られがち。
いかに中小企業・スタートアップまで制度を広げられるかが、次の大きな焦点です。
ということで、今回は以上とさせていただきます。
次回は、「中小企業・スタートアップに広がるか?実務面の課題」をテーマに、制度の使いやすさや現場でのハードルについて考えていきたいと思います。
次回以降も、よろしくお願いいたします。
設備投資促進税制を読み解く(第2回)
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