先日、日経新聞の朝刊に「減価償却費を一括計上設備投資促す」という記事が載っていました。
この記事については大事なことなので、全5回に分けて考えてみたいと思います。
1.経産省が狙う「大胆な投資促進税制」
2026年度の税制改正要望に向けて、経済産業省は新たな投資優遇制度の創設を打ち出しました。
その柱は次の2つです。
・税額控除:一定規模の設備投資を行った企業が、投資額の一定割合を法人税から直接差し引ける。
・即時償却:通常は数年に分けて計上する減価償却費を、初年度に一括で損金算入できる。
これまで中小企業を中心に設備投資税制は存在していましたが、今回は「企業規模を問わず」幅広い投資を対象とする点が大きな特徴です。
対象となる資産も、工場や機械といったハードだけでなく、ソフトウェアやデジタル関連投資も含まれる見込みです。
2. 企業にとってのメリットと会計処理の違い
投資初年度に税負担が軽くなり、資金繰りの余裕が生まれるのは大きなメリットです。
例えば工場建設の初年度に、税額控除と即時償却を併用できれば、キャッシュフロー面でのインパクトは非常に大きいでしょう。
一方で注意点もあります。
・税務上は「即時償却」が認められても、企業会計(決算短信や有価証券報告書)では従来どおり耐用年数に応じた減価償却を行う見込みです。
・つまり「会計上の利益」には大きな変動はなく、税金の計算上だけ優遇が効く、という仕組みです。
監査を受けない中小企業などでは税務と会計の境界が意識されにくい面もあり、「制度の理解不足で誤解を招く可能性」には注意が必要です。
3.海外との比較ー日本の遅れと追随
海外ではすでに「国内投資を税制で囲い込む流れ」が進んでいます。
・米国は 2024年7月に即時償却の恒久化を盛り込んだ法律を成立。
・ドイツも法人税減税や加速償却を導入し、産業競争力を高めようとしています。
日本も「国内のサプライチェーン維持」「2040年に設備投資 200兆円」という目標を掲げていますが、与
党が参院選で敗北し、野党との調整が不可欠な状況。
年末の税制改正大綱に向けた議論は難航が予想されます。
4.生活者・投資家にとっての意味
一見すると「大企業向けの話」に見えるかもしれませんが、私たち生活者にとっても無関係ではありませ
ん。
・設備投資が進めば、生産性向上による賃上げや雇用維持につながる可能性。
・企業の成長力強化は、株式市場や年金運用の安定にも波及。
・中小企業やスタートアップも恩恵を受ければ、地域経済の底上げにつながる。
逆に、制度が大企業中心に使われて中小企業に広がらなければ、「格差拡大」の懸念も残ります。
「投資初年度の負担を軽くする」というのは、一見地味ですが企業にとっては極めて大きなインセンテイブです。
ただし、その効果を持続的な賃上げや地域経済の底上げに結びつけられるかは、制度設計と運用次第。
今後の税制改正の行方は、企業経営者だけでなく、働く私たちや投資家にとっても注目に値します。
ということで、今回は以上とさせていただき、次回は即時償却・税額控除の効果について見てみたいと思います。
次回以降も、引き続きよろしくお願いいたします。
設備投資促進税制を読み解く(第1回)
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