第7回 親の終活・相続準備の始め方 家族が安心して向き合うための「話す・まとめる・備える」ステップ

FP
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高齢の親と向き合うとき、多くの人が「どのタイミングで、どこまで踏み込んで話すべきか」を悩みます。相続、医療、介護、葬儀、財産管理——いずれも避けて通れないテーマですが、話題にしにくい分だけ、トラブルや後悔が起きやすいのも事実です。

終活とは、死後のことだけを準備するのではなく、
これからの人生を自分らしく、安心して暮らすための前向きな活動です。
本稿では、家族が自然に取り組みやすい「終活・相続準備」の進め方を整理し、押さえるべきポイントを解説します。

1. 終活は「死の準備」ではなく、「安心して生きる準備」

終活という言葉に抵抗を感じる親は多いです。
しかし、実態は以下のような“生活の整理”です。

  • これからの暮らし方
  • 医療や介護の希望
  • お金の管理方法
  • 身の回りの整理(もの・契約・デジタル資産)
  • 亡くなった後の手続きの負担減

話し合いを始めると、むしろ親が安心し、生活の質が上がることが多くあります。


2. 終活の第一歩は「親の意思を知ること」

いきなり相続やお金の話をすると構えてしまうため、自然な入り方が大切です。

◆ 自然な切り出し方の例

  • 「最近、住まいや健康のことで心配なことはない?」
  • 「これからどんな生活をしたいと思ってる?」
  • 「もし入院したら、どういう治療を希望する?」
  • 「大事な書類はどこにあるかだけ教えておいてほしいな」

無理やり進めるよりも、「親の価値観や希望を知る」という姿勢で始めるとスムーズです。


3. 終活で整理しておきたい“3つの領域”

(1)暮らしの領域

  • 住み替えの希望(住み慣れた家/都市部へ移住/子どもの近く など)
  • 医療の希望(延命治療の考え方)
  • 介護の希望(自宅/施設/子どもに負担はかけたくない等)
  • 日常生活の安全(買い物、交通、見守り)

(2)お金・資産の領域

  • 預貯金・年金
  • 不動産
  • 株式・投信・保険
  • 借入金の有無
  • 自動車・貴金属
  • デジタルサービスの契約(スマホ・ネット銀行)

特に重要なのは、
「どこに何があるのか」を家族が把握しておくこと。

(3)死後の手続きの領域

  • 葬儀の希望
  • 墓地・納骨の考え方
  • 遺品整理
  • 相続人の名前と連絡先
  • 遺言書の有無

これらを一度まとめておけば、家族の負担は大幅に軽減します。


4. 遺言書は“揉めないための保険”

遺言書があると、相続手続きはスムーズになります。
特に以下のケースでは、遺言書があるかどうかで大きく変わります。

  • 子ども同士が遠方に住んでいる
  • 不動産が1つだけ(分けにくい)
  • 再婚・事実婚(相続関係が複雑)
  • 家族関係に不安がある
  • 介護を担う子どもが偏っている場合

◆ 遺言書の種類

  • 自筆証書遺言(自分で書く。法務局で保管可)
  • 公正証書遺言(公証役場で作成)

迷ったら 公正証書遺言 が最も確実で安心です。


5. 資産管理の体制づくり(家族信託・任意後見)

親の判断能力が落ちると、家族が代わりに手続きできないため、

  • 銀行取引
  • 不動産売買
  • 介護施設入居契約
  • 病院の支払い

などがスムーズに進まなくなることがあります。

◆ 家族で備えておきたい制度

  • 家族信託:家族が柔軟に財産管理を担える
  • 任意後見契約:元気なうちに「後見人」を指名
  • 銀行の代理人制度:預金の出し入れが可能

これらは「早めに準備しておくほど選択肢が広がる」制度です。


6. 不動産は終活で最も揉めやすいテーマ

相続トラブルの原因の半数以上は不動産です。
特に以下のケースは要注意です。

  • 実家が老朽化している
  • 空き家になりそう
  • 売却かそのままかで家族の意見が割れる
  • 土地が広すぎて維持が大変
  • 管理できる人がいない

早めに家族会議を開き、
「今後10年の住まい方」と「不動産の使い方」を整理しておくことが大切です。


7. 親・子ども双方にメリットがある“終活ノート”

今の終活は「エンディングノート」ではなく、
生活・医療・介護・お金の情報を家族で共有するためのノートとして使うケースが増えています。

◆ 入れておくべき情報

  • 親のプロフィール
  • 医療・介護の希望
  • かかりつけ医
  • 薬の情報
  • 契約一覧(銀行・保険・スマホ・ネット)
  • 重要書類の保管場所
  • 資産の内容
  • 葬儀・お墓の考え方
  • 家族へのメッセージ

形は紙でもデジタルでも構いません。

大切なのは「親と子どもが一緒に整理すること」です。


8. 終活をスムーズに進めるための“話し方”

◆ 親が安心する伝え方のポイント

  • 責める雰囲気にしない
  • 「心配だから確認したい」と素直に伝える
  • 否定せずに聞く
  • 無理に急がせない
  • 複数回に分けて話す
  • 小さなテーマから始める
  • 必要なら専門家(FP・税理士・司法書士等)を同席させる

終活は「家族の対話」がすべての出発点です。


結論

終活・相続準備は、親を追い込むものではなく、親自身が安心してこれからを生きるための支度です。
そして、家族が困らず、争わずに済むための知恵でもあります。

重要なのは、

  • 親の意思を知り
  • 必要な情報をまとめ
  • 医療・介護・お金に備え
  • 家族全員で共有すること

という3つのステップです。

親が元気なうちに、家族が前向きに話せる環境を整えるほど、本人にとっても家族にとっても安心な老後が実現できます。


出典

厚生労働省「人生会議(ACP)の推進」、内閣府「成年後見制度」、日本司法書士会連合会資料 ほか


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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