「マルサが入った」というニュースを耳にすると、多くの人は大規模な脱税事件を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際、国税局査察部、通称「マルサ」は、一般的な税務調査とは異なる役割を担っています。税務署による通常の調査が正しい税額を確定するための行政手続きであるのに対し、査察調査は悪質な脱税を摘発し、刑事責任を追及することを目的としています。
今回は、査察調査とはどのような制度なのか、通常の税務調査との違いを見ていきます。
査察調査とは何か
査察調査とは、国税局査察部が行う犯罪捜査に近い税務調査です。
正式には国税犯則取締法などに基づいて実施され、故意に税金を免れようとした悪質な脱税事件を対象とします。
目的は単に不足税額を徴収することではありません。
脱税事件として証拠を集め、必要に応じて検察庁へ告発することが最大の目的です。
そのため、通常の税務調査とは性格が大きく異なります。
通常の税務調査との違い
税務署が行う一般的な税務調査では、帳簿や領収書などを確認し、申告内容に誤りがないかを調べます。
申告漏れがあれば修正申告や更正処分が行われ、必要に応じて加算税や延滞税が課されます。
一方、査察調査では、最初から刑事事件として立件できるかどうかを視野に入れて調査が進められます。
そのため、脱税の故意を示す証拠や、所得を隠すための工作、資金の流れなどについて詳細な調査が行われます。
税額を計算するだけでなく、「犯罪として立証できる証拠」を収集することが重要になります。
どのような事件が対象になるのか
査察調査の対象になるのは、単なる申告ミスではありません。
例えば、
・長期間にわたり売上を隠していた
・架空会社を利用して所得を分散していた
・架空経費を計上して利益を圧縮していた
・二重帳簿を作成していた
・海外口座を利用して資産を隠していた
といった計画的で悪質なケースが中心です。
また、脱税額が大きいことや、社会的影響が大きいことも対象となる要素の一つです。
査察調査ではどのようなことが行われるのか
査察調査では、多くの証拠を収集します。
帳簿や請求書だけでなく、
預金口座
契約書
電子メール
パソコンのデータ
スマートフォンの記録
なども重要な証拠となります。
さらに、関係者への事情聴取や資金の流れの分析なども行われます。
こうして集めた証拠を基に、故意による脱税が立証できるかを判断します。
査察調査の後はどうなるのか
調査の結果、悪質な脱税と判断された場合、国税局は検察庁へ告発します。
検察官は証拠を確認し、起訴するかどうかを判断します。
起訴されれば刑事裁判が開かれ、有罪となった場合には懲役刑や罰金刑が科されることがあります。
もちろん、刑事事件となった場合でも、本来納めるべき税金や重加算税などを支払う義務はなくなりません。
行政上の責任と刑事上の責任は、それぞれ別に問われます。
査察制度が果たす役割
査察調査は毎年多数行われているわけではありません。
対象は悪質性が高い事件に絞られています。
それでも査察制度が存在する理由は、不正な脱税を放置すると、正しく納税している人との公平性が失われるためです。
「脱税は割に合わない」という社会的な抑止効果を持たせることも、査察制度の重要な役割の一つです。
公平な税負担を維持するためには、悪質な不正に対する厳格な対応が欠かせません。
結論
査察調査は、通常の税務調査とは異なり、悪質な脱税事件を対象とした刑事手続きにつながる調査です。
税額を確定することだけが目的ではなく、故意による脱税を立証する証拠を収集し、必要に応じて検察庁へ告発する役割を担っています。
一方で、多くの税務調査は行政手続きとして行われており、すべてが査察事件になるわけではありません。
税務制度には、申告内容を確認して是正する仕組みと、悪質な脱税を厳しく取り締まる仕組みの両方があり、それぞれが公平な税負担を支える重要な役割を果たしています。
参考
税のしるべ
2026年7月20日
連載「続・傍流の正論~税相を斬る」弁護士・税理士 品川芳宣
第99回 重加の論点⑥、「偽りその他不正」との関係