相続税評価と時価はなぜ大きく違うのか 財産評価編

税理士
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相続税の話になると、「この土地は1億円で売れるのに、相続税評価額は7,000万円だった」「マンションは市場価格よりずっと低い金額で評価された」といった話を耳にすることがあります。

初めて聞く方は、「なぜ同じ不動産なのに価格が違うのだろう」と疑問に思うでしょう。

実は、相続税評価額と時価(市場価格)は、そもそも目的が異なるため、必ずしも一致しません。

しかし、その差が大きくなりすぎると、税負担の公平性という新たな問題が生じます。

今回は、この「評価額」と「時価」の違いについて、制度の基本から解説します。

相続税評価額とは何か

相続税は、亡くなった方が残した財産の価値を評価し、その合計額を基に税額を計算します。

しかし、日本中にあるすべての土地や建物を、一件ずつ市場価格で鑑定評価することは現実的ではありません。

そのため国税庁は、「財産評価基本通達」という評価基準を設けています。

例えば、

  • 土地は路線価や倍率方式
  • 建物は固定資産税評価額
  • 上場株式は一定期間の株価

など、全国共通のルールによって評価が行われます。

つまり、相続税評価額とは、「課税のための統一的な価格」なのです。

時価とは何か

一方、時価とは実際に売買される価格です。

不動産であれば、

  • 立地
  • 周辺環境
  • 人気
  • 将来性
  • 景気動向
  • 金利水準

など、多くの要素によって価格が決まります。

同じ広さの土地でも、

駅前と郊外では価格は大きく違います。

さらに、同じマンションでも階数や眺望によって価格が変わります。

市場では需要と供給によって価格が決まるため、時価は日々変動しているのです。

なぜ両者には差が生まれるのか

相続税評価額は、課税の公平性を保つために一定のルールで計算されます。

一方、市場価格は投資家や購入希望者の評価によって決まります。

そのため、

評価額と時価が一致しないこと自体は自然なことです。

例えば土地の路線価は、公示地価のおおむね8割程度を目安として設定されています。

建物の固定資産税評価額も、建築費や経年劣化などを考慮して算定されます。

つまり、相続税評価額は「売れる価格」ではなく、「課税のための価格」なのです。

問題となったのは乖離の大きさだった

本来、一定の差があることは制度上想定されています。

しかし近年は、

貸付用不動産や不動産小口化商品などで、市場価格と相続税評価額との間に極めて大きな乖離が生じるケースが増えてきました。

例えば、市場価格が数億円であっても、相続税評価額はその半分以下、場合によっては数分の一になる事例もありました。

こうした大きな乖離を利用して相続税を軽減する手法が広がったため、「制度の趣旨から外れているのではないか」という議論が強まったのです。

令和8年度税制改正では、このような過度な乖離を是正する方向で評価方法が見直されました。

公平性と予測可能性の両立が重要

税制には二つの重要な考え方があります。

一つは「公平性」です。

同じ財産価値であれば、できるだけ同じ税負担になるべきという考え方です。

もう一つは「予測可能性」です。

納税者が事前に税額を予測できなければ、安心して財産の承継や資産形成を進めることはできません。

今回の改正も、この二つの考え方のバランスを取ることが大きなテーマとなっています。

評価額を時価に近づければ公平性は高まりますが、評価方法が複雑になれば予測可能性が低下する恐れもあります。

そのため、今後も通達や質疑応答事例を通じて、実務上のルールが整備されていくことが期待されています。

相続対策は「評価差」を追う時代から変わる

これまでの相続対策では、

「評価額をいかに下げるか」

という視点が重視されることもありました。

しかし、制度改正が進む現在では、その考え方だけでは十分とはいえません。

むしろ、

  • 長期的に収益を生む資産か
  • 将来も価値を維持できる資産か
  • 円滑に承継できる資産か

といった視点が、これまで以上に重要になります。

税制は変わりますが、良い資産の価値は変わりません。

資産承継においても、短期的な節税だけでなく、長期的な資産価値を見据えた判断が求められる時代になってきています。

結論

相続税評価額と時価が異なるのは、それぞれの目的が異なるためです。

相続税評価額は公平な課税を実現するための統一的な基準であり、時価は市場で実際に取引される価格です。

問題となったのは、その差そのものではなく、一部の制度利用によって乖離が過度に大きくなり、税負担の公平性が損なわれるケースが増えたことでした。

これからの相続対策では、「評価額を下げる方法」を探すのではなく、「価値ある資産を次世代へどう引き継ぐか」という視点が、より重要になっていくでしょう。

参考

令和8年度税制改正の実務ポイント 第3 資産課税・住宅税制(2026年4月6日講義資料)

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