近年、「おひとりさま」という言葉は、未婚の人だけでなく、配偶者と死別した人や離婚した人、子どもが遠方に住んでいる人など、さまざまな暮らし方を表すようになりました。
人生100年時代を迎え、おひとりさまで老後を過ごす人は今後さらに増えていくと考えられます。その一方で、病気や認知症、入院、介護、そして亡くなった後の手続きなど、家族が当然のように担ってきた役割を誰が引き受けるのかという課題も大きくなっています。
こうした不安を解消するためには、「困ってから考える」のではなく、「元気なうちに契約を整えておく」ことが大切です。
今回は、おひとりさまが安心して老後を過ごすために準備しておきたい五つの契約について解説します。
第一の契約 任意後見契約
年齢を重ねると、認知症や病気などによって判断能力が低下する可能性があります。
判断能力が十分あるうちに、自分が信頼できる人へ将来の財産管理や契約手続きを任せる約束をしておくのが任意後見契約です。
この契約を結んでおけば、将来、自分で契約や財産管理が難しくなった場合でも、あらかじめ選んだ後見人が本人の意思を尊重しながら支援を行います。
法定後見制度と異なり、自分で後見人を選べることが大きな特徴です。
第二の契約 財産管理等委任契約
判断能力はあるものの、体力の低下や入院などによって日常生活の手続きが難しくなることがあります。
そのような場合に役立つのが財産管理等委任契約です。
例えば、
・銀行での手続き
・公共料金の支払い
・年金関係の手続き
・行政への届出
などを本人に代わって行ってもらうことができます。
任意後見契約が将来への備えであるのに対し、こちらは現在の生活を支える契約として活用されることが多くあります。
第三の契約 身元保証契約
入院や介護施設への入所時には、身元保証人を求められることがあります。
家族がいない場合には、この保証人を誰が引き受けるのかが大きな問題になります。
身元保証契約では、
・緊急連絡先
・入退院時の支援
・施設との連絡
・必要な手続き
などを契約に基づいて支援してもらいます。
契約先は、専門職や民間事業者、地域によっては社会福祉協議会などさまざまです。
契約内容や費用、対応範囲は事前によく確認しておきましょう。
第四の契約 死後事務委任契約
亡くなった後には、多くの手続きが残されています。
例えば、
・葬儀
・火葬・納骨
・住居の明け渡し
・公共料金の解約
・家財整理
・行政手続き
などです。
これらは遺言書だけでは対応できません。
死後事務委任契約を結んでおけば、信頼できる人や専門家にこれらの手続きを依頼できます。
自分の希望を具体的に契約へ反映できることが、この契約の大きなメリットです。
第五の契約 遺言書の作成
最後に欠かせないのが遺言書です。
遺言書は財産を誰に引き継ぐのかを決める重要な法的文書です。
預貯金や不動産だけでなく、
・寄付したい団体
・お世話になった友人
・特定の親族
などへの財産の承継も指定できます。
特におひとりさまの場合、法定相続人との関係や財産の行き先を明確にしておくことは、将来のトラブル防止につながります。
公正証書遺言を利用すれば、紛失や偽造のリスクも抑えられます。
五つの契約は組み合わせて考える
これらの契約は、それぞれ役割が異なります。
任意後見契約は判断能力低下への備えです。
財産管理等委任契約は日常生活の支援です。
身元保証契約は入院や施設利用への備えです。
死後事務委任契約は亡くなった後の手続きです。
遺言書は財産承継の意思表示です。
一つだけ準備すれば安心というものではなく、自分の家族構成や資産状況、健康状態に応じて必要な契約を組み合わせることが重要になります。
契約相手は慎重に選ぶ
これらの契約は長期間にわたることが多く、契約相手との信頼関係が何より重要です。
契約前には、
・支援内容
・料金体系
・途中解約の条件
・追加費用
・緊急時の対応
・財産管理方法
などを書面で十分確認しましょう。
必要に応じて、司法書士、弁護士、行政書士、社会福祉協議会など複数の専門家へ相談し、比較検討することも大切です。
結論
おひとりさまの老後に必要なのは、「家族がいないこと」を心配することではなく、「家族の役割を誰に託すのか」を考えることです。
任意後見契約、財産管理等委任契約、身元保証契約、死後事務委任契約、そして遺言書。それぞれの役割を理解し、自分に合った形で準備を進めれば、将来への不安は大きく軽減できます。
人生100年時代では、安心して暮らし続けるための備えも、自分自身で設計する時代になりました。元気な今だからこそ、自分らしい老後を支える契約について考え始めてみてはいかがでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年7月11日 朝刊
メインストーリー 単身高齢者、社協も終活支援 入院手続きや死後事務