関連者間取引は契約書だけでは不十分なのか 新しい書類保存ルールが企業に求めること

経営

企業活動では、親会社と子会社、グループ会社、役員が関係する会社など、関係者との取引が日常的に行われています。このような取引は経済合理性がある一方で、税務上は第三者との取引以上に慎重な管理が求められます。

令和8年度税制改正では、関連者間取引に関する書類保存のルールが新たに整備されました。これは単に書類を保管することを義務付ける制度ではなく、「取引の実態を第三者が理解できるように説明できる状態」を求める制度です。

今回は、この新しい制度が企業経営や実務にどのような影響を与えるのかを考えてみます。

関連者間取引が特に注目される理由

税務調査では、関連者間取引は以前から重点的な確認対象となっています。

その理由は、関係会社や親族会社との取引では、価格や取引条件を自由に設定しやすいためです。

もちろん、多くの企業は適正な取引を行っています。しかし、第三者との通常取引とは異なり、「なぜその価格なのか」「なぜその契約内容なのか」を客観的に説明できなければ、税務上の疑問を持たれる可能性があります。

そのため、関連者間取引では実態を示す資料が極めて重要になります。

契約書だけでは説明できない時代へ

新しい制度では、契約書が存在するだけでは十分とは限りません。

例えば、

・サービス内容が抽象的にしか書かれていない

・金額が「一式」とだけ記載されている

・成果物や業務内容が確認できない

このような場合には、取引の実態を客観的に把握できない可能性があります。

つまり、「契約書がある」ことよりも、「何を、誰が、どのように提供したのか」が分かる資料まで含めて保存することが重要になります。

求められるのは説明できる資料の整備

今回の制度で重視されているのは、「第三者が見ても理解できる程度の記録」です。

例えば、

・見積書

・契約書

・業務報告書

・請求書

・メールでのやり取り

・成果物

・価格決定の根拠資料

こうした資料を組み合わせることで、取引の流れや内容を客観的に説明できる状態を整えることが重要になります。

税務調査では、一つの書類だけではなく、複数の資料を総合して実態が確認されることが一般的です。

書類不足だけで費用が否認されるわけではない

今回の事務運営指針では、重要な考え方も示されています。

書類保存が不十分だからといって、そのことだけを理由に直ちに費用が損金不算入となるわけではありません。

これは企業にとって安心できる点でもあります。

一方で、資料不足により取引実態が確認できない場合には、税務調査で追加説明を求められる可能性があります。

つまり、「書類がないから即否認」ではなく、「実態を説明できるか」が判断の中心になるということです。

青色申告にも影響する可能性がある

さらに注意したいのは、青色申告との関係です。

事務運営指針では、保存状況や改善の可能性などを総合的に判断するとされており、形式的なミスだけで直ちに青色申告承認取消しになるものではありません。

しかし、

・継続的に書類を保存していない

・改善指導にも応じない

・取引実態が確認できない

このような状況が重なれば、より重大な問題へ発展する可能性もあります。

普段から適切な文書管理を行うことが、結果として企業を守ることにつながります。

中小企業こそ内部管理を見直す機会に

関連者間取引というと、大企業だけの問題と思われがちです。

しかし、中小企業でも、

・社長個人会社との取引

・家族会社との取引

・グループ会社間の業務委託

・役員所有資産の賃貸

など、関連者間取引は意外に多く存在します。

だからこそ、契約書だけで安心するのではなく、「後から説明できる資料がそろっているか」という視点で社内管理を見直すことが重要になります。

この考え方は税務対応だけでなく、内部統制やガバナンスの強化にも役立つでしょう。

結論

今回公表された事務運営指針は、企業に新たな負担を課すことだけを目的としたものではありません。

むしろ、関連者間取引の透明性を高め、取引実態を客観的に説明できる環境を整えることが目的とされています。

これからは「契約書を保管している」だけではなく、「取引の背景や内容まで説明できる証拠を残しているか」が重要になります。

日頃から取引資料を整理し、誰が見ても実態を理解できる状態を維持することが、税務リスクの軽減だけでなく、企業の信頼性向上にもつながるのではないでしょうか。

参考

税のしるべ 2026年7月6日号
関連者間取引の書類保存特例の事務運営指針を公表、記載内容の程度や実地調査時の対応、青色承認取消しの取扱いなど示す

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