税理士の仕事の中には会社設立に関する相談があります。
個人事業から法人化したい。
新しい事業を始めたい。
グループ会社を設立したい。
こうした相談は日常的に発生します。
本来、会社設立は経済活動を活性化させる重要な制度です。しかし一方で、マネー・ローンダリング対策の観点からは注意が必要な分野でもあります。
なぜ会社設立がマネロンに利用されるのでしょうか。
今回は法人設立とマネロンリスクについて考えてみます。
なぜ会社設立が利用されるのか
犯罪組織にとって法人は非常に便利な存在です。
法人名義の銀行口座を開設できる。
取引先との契約ができる。
資金移動を行える。
社会的な信用を得やすい。
こうした特徴があるため、実態のない会社を設立して資金洗浄に利用するケースがあります。
会社そのものは合法ですが、その利用目的に問題があるのです。
ペーパーカンパニーとは何か
マネロン対策でよく登場する言葉がペーパーカンパニーです。
これは実際には事業活動を行っていない会社を指します。
事務所がない。
従業員がいない。
売上がない。
しかし法人名義の口座だけは保有している。
このような会社が資金移動の中継地点として利用されることがあります。
もちろん設立直後の会社は売上がないのが普通です。
重要なのは実態の有無を総合的に判断することです。
税理士が気付くべき違和感
会社設立の相談の中には注意が必要なケースがあります。
例えば、
事業内容が曖昧である
資本金の出所が不明である
設立理由を明確に説明できない
代表者が実際の事業を理解していない
短期間に多数の法人を設立している
こうした場合には慎重な対応が必要です。
一つ一つは小さな違和感でも、複数重なるとリスクの兆候になることがあります。
実質的支配者の確認が重要
法人設立で特に重要なのが実質的支配者の確認です。
登記上の代表者と実際の支配者が異なる場合があります。
犯罪組織は名義人を利用することがあるためです。
例えば、
親族名義
知人名義
従業員名義
海外居住者名義
などを利用するケースがあります。
税理士は誰が本当に会社を支配しているのかという視点を持つ必要があります。
法人設立は悪ではない
ここで誤解してはいけないのは、法人設立そのものが危険なわけではないということです。
ほとんどの会社は健全な事業活動を目的として設立されています。
新規事業への挑戦。
事業承継。
法人化による成長戦略。
こうした目的は極めて健全です。
だからこそ税理士は過度に疑うのではなく、合理的な確認を行うことが求められます。
税理士の役割は捜査ではない
税理士は警察官でも検察官でもありません。
顧客の犯罪を調査する立場ではありません。
しかし法令上求められる本人確認や取引時確認を適切に行う義務があります。
顧客から説明を受ける。
必要書類を確認する。
記録を保存する。
不自然な点があれば追加確認を行う。
これが税理士に期待されている役割です。
会社設立支援は信頼ビジネス
会社設立業務は単なる手続支援ではありません。
顧客の人生や事業のスタート地点に関わる仕事です。
だからこそ適切な確認を行うことが顧客のためにもなります。
もし後になって反社会的勢力との関係や資金の問題が発覚すれば、顧客自身も大きな損害を受ける可能性があります。
健全なスタートを支援することこそ、税理士の重要な役割なのです。
これから増える法人設立リスク
近年はインターネットを利用して簡単に法人設立ができる時代になりました。
さらに、
ネットビジネス
暗号資産関連事業
海外取引
デジタルサービス
など新しい事業形態も増えています。
その結果、法人設立の実態把握が難しくなるケースも増えています。
税理士には従来以上に取引の背景を見る力が求められるでしょう。
結論
会社設立は経済活動に欠かせない制度ですが、犯罪組織に利用されるリスクも存在します。税理士は法人設立支援を行う際、事業目的や資本金の出所、実質的支配者などを適切に確認することが重要です。
税理士の役割は顧客を疑うことではありません。健全な事業活動を支援し、社会の信頼を守ることです。法人設立業務はその責任が最も問われる場面の一つなのです。
参考
警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策第一課犯罪収益対策室(JAFIC)
「マネー・ローンダリング対策について」講義資料
警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策第一課犯罪収益対策室(JAFIC)
「疑わしい取引の届出方法について」補助資料