企業の不正会計や粉飾決算が報道されるたびに、「なぜ長年にわたり発覚しなかったのか」という疑問が投げかけられます。
その背景には、紙の帳簿や証憑を中心とした管理では、改ざんや差し替えが見抜きにくいという課題がありました。
こうした課題を解決するために整備が進められているのが電子帳簿保存法です。
この法律は単に帳簿を電子化するための制度ではありません。企業活動の透明性を高め、適正な会計処理を支える重要な仕組みでもあります。
今回は、電子帳簿保存法が粉飾決算防止にどのような役割を果たすのかについて考えてみます。
電子帳簿保存法の本来の目的
電子帳簿保存法というと、「スキャナ保存」や「電子取引データ保存」など、保存方法ばかりが注目されがちです。
しかし、本来の目的は、電子データを適切に保存し、その真正性や可視性を確保することにあります。
つまり、「後から自由に書き換えられない仕組み」を整えることが重要なのです。
税務調査では、帳簿そのものだけでなく、その帳簿がいつ、どのように作成され、変更されたのかという履歴も重要な確認事項となります。
電子帳簿保存法は、その信頼性を高めるための制度なのです。
改ざん防止機能が不正を抑止する
電子データには、紙にはない大きな特徴があります。
それは、操作履歴や更新履歴を残せることです。
クラウド会計ソフトや販売管理システムでは、
・いつ入力したのか
・誰が修正したのか
・どの項目を変更したのか
といった履歴が記録されます。
これにより、不自然な修正や後日の売上変更などが発見しやすくなります。
不正を完全になくすことはできませんが、「後から見つかる可能性が高い」という環境そのものが、不正の抑止力になります。
証憑管理の一元化が透明性を高める
電子帳簿保存法では、請求書、領収書、契約書、電子メールなど、多くの証憑を電子データとして保存します。
紙の時代には、
「あの領収書が見当たらない」
「契約書を紛失した」
「メールを削除してしまった」
といった問題が発生していました。
一方、電子保存では検索機能を活用し、必要な資料を短時間で取り出すことができます。
税務調査でも資料提出が迅速になり、企業側・税務当局双方の負担軽減にもつながっています。
また、証拠が時系列で整理されるため、会計処理の妥当性を確認しやすくなります。
AI時代は電子データが最大の証拠になる
税務行政ではDXが急速に進んでいます。
AIによるデータ分析や異常値検知が活用される時代では、電子データの整備状況が企業の信頼性を左右します。
売上推移
利益率
経費計上
在庫変動
資金移動
これらをAIが分析し、不自然な動きを把握することも珍しくなくなるでしょう。
つまり、電子帳簿保存法への対応は、単なる法令遵守ではなく、AI時代の税務調査への備えでもあるのです。
税理士が支援できること
電子帳簿保存法への対応は、システムを導入すれば終わりではありません。
運用ルールを定め、社員へ周知し、継続的に管理することが重要です。
税理士は、
保存方法の確認
社内ルールの整備
電子取引の運用確認
内部統制の見直し
クラウド会計との連携
など、多方面から企業を支援できます。
法令を守るだけではなく、信頼される経営基盤づくりを支援することこそ、これからの税理士に期待される役割です。
結論
電子帳簿保存法は、単なる「電子保存のルール」ではありません。
企業活動の透明性を高め、不正を防ぎ、税務調査にも適切に対応できる経営基盤を整えるための重要な制度です。
粉飾決算は、制度だけで完全に防げるものではありません。しかし、改ざんしにくく、証拠が残りやすい環境を整えることは、不正の抑止に大きな効果があります。
これからの企業経営では、電子帳簿保存法を「義務」として捉えるのではなく、「信頼を築くための経営インフラ」として活用することが求められるでしょう。
参考
税理士界 令和8年6月15日(月曜日) 第1461号
論壇「税制面からの粉飾決算防止策の提言」 北陸税会 労綱 重則 氏