会社の決算書を見ると、「役員貸付金」という勘定科目が計上されていることがあります。
経営者の中には、「いずれ返す予定だから問題ない」「自分の会社なのだから自由に使ってもよい」と考えている人も少なくありません。
しかし、税務調査の現場では役員貸付金は非常に注目される項目です。場合によっては追徴課税だけでなく、源泉所得税や重加算税の問題に発展することもあります。
人生100年時代を迎え、事業承継や相続対策を考えるシニア経営者にとって、役員貸付金は決して軽視できない論点です。
今回は、なぜ役員貸付金が危険視されるのかを考えてみます。
役員貸付金とは何か
役員貸付金とは、会社が役員や社長に対して貸し付けたお金です。
例えば、
・社長個人の生活費を会社から引き出した
・個人の住宅購入資金に会社資金を使った
・個人的な投資資金を会社から借りた
・会社名義の資金を一時的に利用した
といった場合に発生します。
本来は貸付契約を締結し、返済計画を作成し、利息も受け取るべきものです。
しかし中小企業では形式だけの貸付になっていたり、返済の見込みがないまま残高が膨らんでいたりするケースも見受けられます。
税務調査で必ず確認される理由
税務署が役員貸付金に注目する理由は明確です。
それは、
「本当に貸付なのか」
という点です。
例えば返済が何年も行われていない場合や、返済能力がない場合には、実質的には貸付ではなく社長への利益供与と判断される可能性があります。
税務署は、
・貸付契約書の有無
・返済実績
・利息の授受
・資金の使途
・返済能力
などを総合的に確認します。
形式だけ貸付金として計上していても、実態が伴わなければ否認されるリスクがあります。
給与認定されるリスク
最も注意すべきなのは給与認定です。
会社から社長へ流出した資金が、実質的には役員報酬であると認定される場合があります。
その場合、
・法人側では損金算入が否認される
・社長個人には所得税が課税される
・会社には源泉徴収義務が発生する
という三重の負担が生じます。
さらに源泉所得税の納付漏れとして不納付加算税や延滞税が課される可能性もあります。
経営者自身が「借りたつもり」であっても、税務上は全く異なる評価を受けることがあるのです。
事業承継で大きな障害になる
役員貸付金は税務調査だけの問題ではありません。
事業承継でも大きな障害になります。
後継者から見ると、
「会社のお金を社長が借りたまま返していない」
という状態です。
仮に数千万円の役員貸付金が残っていれば、後継者は会社を引き継ぐと同時にその回収問題も抱えることになります。
金融機関も役員貸付金の多い会社を好みません。
決算書の信用力が低下し、融資審査にも影響を与える場合があります。
事業承継の準備として、役員貸付金の整理は極めて重要な課題です。
相続発生時に問題が表面化する
シニア経営者にとって見逃せないのが相続です。
役員貸付金は社長個人から見れば負債ですが、会社から見れば資産です。
相続が発生すると、
「本当に回収できるのか」
という問題が浮上します。
また、相続人が返済能力を持たない場合には、会社経営そのものに悪影響を及ぼす可能性があります。
長年放置された役員貸付金が、相続をきっかけに家族間のトラブルへ発展する事例も少なくありません。
人生100年時代の経営者に求められること
人生100年時代では、70歳を超えて経営を続ける人も珍しくありません。
その一方で、健康問題や認知機能の低下、相続、事業承継などを見据えた経営も必要になります。
そのためには、
・会社と個人のお金を明確に分ける
・貸付契約書を整備する
・返済計画を作る
・定期的に残高を確認する
・事業承継前に整理する
ことが重要です。
役員貸付金は経営者の自由度を高めるものではなく、将来の経営リスクを先送りする仕組みになりやすいのです。
結論
役員貸付金は単なる会計上の数字ではありません。
税務調査では給与認定や源泉徴収漏れのリスクがあり、事業承継では後継者の負担となり、相続では家族間トラブルの原因にもなります。
特に人生100年時代のシニア経営者にとっては、役員貸付金の放置は将来への負債を積み上げる行為になりかねません。
会社のお金と個人のお金を明確に区別し、役員貸付金を早期に整理することこそが、円滑な事業承継と安定した老後への第一歩なのです。
参考
税のしるべ 2026年6月8日
連載「続・傍流の正論~税相を斬る」
「最判にも疑義⑩、源泉徴収義務」
弁護士・税理士 品川芳宣