人生100年時代を迎え、働く期間は確実に長くなっています。
60歳で定年を迎えても働き続ける人は増えていますし、70歳以降も現役として活躍する人も珍しくなくなりました。
一方で、働く期間が長くなるほど、育児や介護、病気や治療など様々なライフイベントと向き合う機会も増えます。
ところが現実には、多くの管理職が「休めない」と感じています。
一般社員には休暇制度があっても、課長や部長になると休暇取得率が下がる傾向があります。経営者に近づくほど、その傾向はさらに強くなります。
なぜ管理職は休めないのでしょうか。
その背景には、日本企業に根強く残る「属人化組織」の問題があります。
属人化組織という見えないリスク
属人化とは、業務や意思決定が特定の個人に依存している状態を指します。
例えば、
・その人しか分からない業務がある
・その人しか判断できない案件がある
・その人しか持っていない人脈がある
・その人がいないと会議が進まない
このような状態です。
本人が優秀であればあるほど、周囲は頼るようになります。
結果として、
「あの人がいないと困る」
という組織が出来上がります。
一見すると優秀な管理職が組織を支えているように見えます。
しかし実際には、組織が一人の人間に依存している危険な状態とも言えます。
管理職自身が属人化を生む
興味深いのは、属人化は組織だけでなく管理職自身も生み出していることです。
管理職の中には、
「自分がやった方が早い」
「自分しか判断できない」
「任せると不安だ」
と考える人が少なくありません。
確かに短期的には正しいかもしれません。
しかし長期的には部下が育たず、結果として自分の負担が増えていきます。
気が付けば、
自分が休めない
自分が辞められない
自分が病気になれない
という状態に陥ります。
これは責任感の問題ではなく、組織設計の問題です。
本当に強い組織とは何か
優秀な管理職がいる組織と、強い組織は必ずしも同じではありません。
本当に強い組織とは、
誰かが休んでも回る組織
です。
災害が起きることもあります。
病気になることもあります。
介護が始まることもあります。
人生100年時代においては、それらは例外ではなく誰にでも起こり得る出来事です。
そのたびに組織が混乱するのであれば、持続可能な経営とは言えません。
重要なのは、
「誰がやるか」
ではなく
「どうやって回すか」
なのです。
管理職の仕事は自分でやることではない
管理職の役割を誤解している企業は少なくありません。
プレーヤーとして優秀だった人が管理職になると、自分で成果を出そうとします。
しかし管理職の本来の仕事は、
成果を出すこと
ではなく
成果を出せる組織を作ること
です。
部下を育てる。
情報を共有する。
権限を委譲する。
判断基準を明確にする。
こうした仕組みづくりこそが管理職の重要な仕事です。
管理職がいなくても組織が回るようになった時、その管理職は初めて本来の役割を果たしたと言えるのかもしれません。
育児や介護は管理職だけの問題ではない
近年は育児や介護との両立が社会課題となっています。
しかしこれは個人の問題ではありません。
組織の問題です。
管理職が休めない組織では、部下も休めません。
部長が育休を取れない会社では、若手社員も育休を取りにくくなります。
経営者が介護休暇を否定的に考える会社では、社員も安心して介護に向き合えません。
組織文化はトップの行動によって決まります。
だからこそ、管理職自身が休むことも重要な役割なのです。
AI時代に属人化は通用しなくなる
AIやデジタル技術が進歩する中で、属人化の問題はさらに重要になります。
情報共有が進み、
業務マニュアルが整備され、
知識がデータ化される時代です。
これからの組織では、
知識を抱え込む人
よりも
知識を共有できる人
の価値が高まります。
管理職も同じです。
自分だけが知っていることを増やすのではなく、組織全体が活用できる知識へ変換することが求められます。
人生100年時代の管理職像
人生100年時代の管理職には新しい役割が求められます。
それは、
自分が頑張る人
ではなく
組織を機能させる人
になることです。
長時間働くことを誇る時代は終わりつつあります。
これからは、
誰かが休んでも成果が出る
誰かが辞めても事業が続く
誰もが安心して挑戦できる
そんな組織を作ることが管理職の価値になります。
結論
管理職が休めない最大の理由は、責任感の強さではありません。
業務や判断が特定の個人に集中した属人化組織にあります。
人生100年時代においては、育児、介護、病気、治療など様々なライフイベントが誰にでも訪れます。
そのたびに組織が機能しなくなるのであれば、持続可能な組織とは言えません。
本当に優れた管理職とは、自分がいなくても組織が回る仕組みを作れる人です。
休めない管理職を増やすのではなく、誰もが安心して休める組織を作ること。
それこそが人生100年時代の組織経営に求められる大きな課題ではないでしょうか。
参考
・日本経済新聞 2026年6月8日 朝刊「現職女性首長の産休取得 専門家に聞く 仕事の成果で評価」
・日本経済新聞 2026年6月8日 朝刊「挑戦できる社会に」
・日本経済新聞 2026年6月8日 朝刊「自治体が先行整備を」
・日本経済新聞 2026年6月8日 朝刊「子育て中の正社員女性、3割弱が育児で離職」