人生100年時代と言われるようになって久しくなりました。しかし私たちの働き方や組織の仕組みは、まだ高度経済成長期の価値観を色濃く残しています。
長時間働くことが評価される。
休まないことが責任感だと思われる。
管理職や経営者は常に職場にいなければならない。
こうした考え方は今も根強く残っています。
そのような中、京都府八幡市の川田翔子市長が現職女性首長として初めてとみられる産休取得を発表しました。
この出来事は単なる一自治体の話ではありません。
人生100年時代において、仕事と出産、育児、介護、病気などのライフイベントをどのように両立していくのかを考える重要なきっかけになる出来事だと思います。
時間評価から成果評価への転換
これまで日本社会では、働いた時間が評価される傾向が強くありました。
長く会社にいる人が評価される。
休日も仕事をしている人が評価される。
その結果として、
「休んだら迷惑をかける」
という意識が生まれました。
しかし本来重要なのは、どれだけ長く働いたかではありません。
どのような成果を生み出したかです。
今回の記事の中で前大津市長の越直美氏は、市長は勤務時間ではなく任期中の成果で評価されるべきだと述べています。
これは市長だけの話ではありません。
企業経営者も管理職も専門職も同じです。
成果が上がるのであれば、必ずしも四六時中職場にいる必要はありません。
人生100年時代に求められるのは、時間管理ではなく成果管理なのだと思います。
誰もがライフイベントを抱える時代
出産や育児は女性だけの問題ではありません。
男性も育児をします。
親の介護をする人もいます。
自分自身が病気になることもあります。
人生が長くなればなるほど、こうしたライフイベントに直面する可能性は高くなります。
ところが現在の社会には、
「重要なポストにいる人は休めない」
という空気が残っています。
しかし本当にそうでしょうか。
もし組織のトップが休めないのであれば、その組織は極めて脆弱です。
一人の人間がいなくなるだけで機能停止する組織は、災害や事故にも対応できません。
重要なのは、誰かが休んでも組織が回る仕組みを作ることです。
今回の首長の産休取得は、そのことを社会に問いかけているようにも見えます。
管理職こそ休める組織が必要
育児休業というと若手社員の制度だと思われがちです。
しかし実際には管理職のほうが取得しにくい現実があります。
部長や課長は最終決定権者であるため、
「自分が休めば組織が止まる」
と考えがちです。
しかし、それではいつまでも働き方は変わりません。
管理職が休めない組織は、部下も休めません。
経営者が休めない会社は、社員も休めません。
反対にトップが休める組織は、誰もが安心して休めます。
本当に強い組織とは、特定の個人に依存しない組織なのです。
心理的安全性が挑戦を生む
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子氏は、「何かあったら迷惑をかけるから挑戦をやめようと思う社会ではいけない」と指摘しています。
まさにその通りだと思います。
出産するかもしれない。
介護が始まるかもしれない。
病気になるかもしれない。
そんな不安がある中で、
「休んだら終わり」
という社会では、誰も新しい挑戦ができません。
起業もできません。
転職もできません。
政治家にもなれません。
挑戦する人が減る社会は、活力を失います。
だからこそ、
「困ったときはお互い様」
という環境が必要になります。
それが心理的安全性の本質ではないでしょうか。
育児離職の現実が示す課題
マイナビ転職の調査によると、子育て中の正社員女性の約3割が育児を理由に離職を経験しています。
離職を検討した経験まで含めると、さらに多くの人が仕事と育児の両立に悩んでいます。
女性の離職理由では、
「保育園のお迎えに間に合わない」
という回答が最も多かったそうです。
能力の問題ではありません。
意欲の問題でもありません。
制度や働き方の問題です。
優秀な人材が育児を理由に職場を離れることは、本人だけでなく社会全体にとっても大きな損失です。
介護との両立も同じ課題
人生100年時代では、育児だけでなく介護も重要なテーマになります。
現在50代の人たちは、自分の親の介護と向き合う時期に入っています。
さらに70代になれば、自分自身の健康問題とも向き合うことになります。
つまり、
育児と仕事の両立
介護と仕事の両立
治療と仕事の両立
これらはすべて同じ問題なのです。
誰もが人生のどこかで直面する可能性があります。
だからこそ、一部の人だけの問題として考えるべきではありません。
人生100年時代の組織づくり
これからの組織に必要なのは、
「休まない人を評価する仕組み」
ではなく、
「誰かが休んでも成果を出せる仕組み」
です。
情報共有を徹底する。
権限委譲を進める。
業務を属人化させない。
チームで成果を出す。
こうした組織づくりがますます重要になります。
AIやデジタル技術の進歩によって、場所や時間に縛られない働き方も広がっています。
人生100年時代の組織運営は、個人への依存から仕組みへの依存へと変わっていくのかもしれません。
結論
現職首長の産休取得は、一見すると政治の話に見えます。
しかし本質的には、人生100年時代の働き方を問い直す出来事です。
出産、育児、介護、病気。
誰もが人生のどこかでライフイベントと向き合います。
そのたびに仕事を諦めなければならない社会では、多様な人材が活躍することはできません。
これから求められるのは、長時間働く人を評価する社会ではなく、誰もが安心して休み、再び挑戦できる社会です。
働いた時間ではなく成果で評価する。
個人の頑張りではなく組織の仕組みで支える。
今回の首長の産休取得は、そのような社会への第一歩として大きな意味を持っているのではないでしょうか。
参考
・日本経済新聞 2026年6月8日 朝刊「現職女性首長の産休取得 専門家に聞く 仕事の成果で評価」
・日本経済新聞 2026年6月8日 朝刊「挑戦できる社会に」
・日本経済新聞 2026年6月8日 朝刊「自治体が先行整備を」
・日本経済新聞 2026年6月8日 朝刊「子育て中の正社員女性、3割弱が育児で離職」