近年、日本では賃上げが続いています。しかし、それ以上に注目したい変化があります。それは、利子や配当、投資信託の分配金などの「財産所得」が増えていることです。
内閣府の国民経済計算によると、2025年の家計の財産所得は33.6兆円となり、約20年前の1.8倍に増加しました。長く続いた超低金利時代には考えにくかった変化です。
人生100年時代を迎えた日本では、働いて得る給与所得だけでなく、資産が生み出す所得の重要性が高まっています。今回は、財産所得が増えている背景と、その意味について考えてみたいと思います。
財産所得とは何か
財産所得とは、保有している資産から得られる所得のことです。
具体的には次のようなものがあります。
・預貯金の利子
・株式の配当金
・投資信託の分配金
・不動産の賃料収入
・債券の利息
一方で、株式や不動産の売却益は含まれません。
給与所得が「自分が働いて得る所得」であるのに対し、財産所得は「資産が働いて生み出す所得」といえます。
経済学では、労働所得と財産所得は異なる性質を持つものとして区別されています。
なぜ財産所得が増えているのか
今回の統計では、2025年の財産所得は33.6兆円となり、1994年以来の高水準となりました。
その背景には大きく三つの要因があります。
金利上昇の影響
第一の要因は金利の上昇です。
長年続いたゼロ金利政策のもとでは、銀行預金にお金を預けてもほとんど利息は付きませんでした。
しかし近年は日銀の金融政策の変化により金利が上昇し、定期預金や個人向け国債の利回りも改善しています。
預金だけでは大きな資産形成は難しいものの、金利が正常化することで家計全体の利子所得は着実に増加しています。
株主還元の強化
第二の要因は企業の株主還元姿勢の変化です。
日本企業は長らく内部留保を積み上げる傾向が強いと指摘されてきました。
しかし近年は東京証券取引所による資本効率改善の要請などもあり、企業は配当金や自社株買いを積極化しています。
実際に上場企業の配当総額は過去最高水準が続いています。
株式を保有する個人投資家にとっては、企業収益の改善が直接所得の増加につながる環境になりつつあります。
新NISAの普及
第三の要因は新NISAです。
2024年から始まった新NISAは非課税投資枠を大幅に拡大し、多くの人が資産形成を始めるきっかけとなりました。
記事によれば、2025年末時点で口座数は約2,800万口座に達し、買付額累計は71兆円となっています。
これは政府目標を大きく上回るペースです。
投資人口の増加は、将来的な配当所得や分配金収入の増加につながる可能性があります。
日本人の所得構造は変わり始めている
これまで日本人の所得は給与所得への依存度が極めて高い構造でした。
現役時代は給与で生活し、退職後は年金で生活するというモデルです。
しかし少子高齢化が進み、公的年金だけに依存することが難しくなる中で、新たな所得源として財産所得が注目されています。
欧米では以前から資産所得が家計収入の重要な部分を占めています。
例えば米国では配当金や利子収入を老後資金の柱として活用する人も少なくありません。
日本でも少しずつ同じ方向へ向かっていると考えられます。
財産所得は第二の給料になるのか
財産所得の増加は、人生100年時代において大きな意味を持っています。
例えば配当利回り3%の資産を3,000万円保有していれば、年間90万円程度の配当収入が期待できます。
5,000万円なら年間150万円です。
もちろん元本保証ではなく、企業業績や市場環境によって変動します。
それでも、年金や給与に加えて安定的な収入源を持つことは家計の安心感につながります。
特に退職後は、働く時間を減らしながらも収入を維持したいと考える人が増えます。
その際に財産所得は「第二の給料」として機能する可能性があります。
貯蓄率マイナスが示す課題
一方で注意点もあります。
記事によれば、2025年の家計貯蓄率はマイナス0.8%となりました。
物価上昇や税負担の増加により、所得の伸び以上に支出が増えているためです。
つまり財産所得が増えても、それ以上に生活コストが上昇すれば家計は楽になりません。
資産形成を進めるためには、
・家計管理
・長期積立投資
・分散投資
・過度な借入の抑制
といった基本的な取り組みが引き続き重要になります。
人生100年時代の所得戦略
人生100年時代には、収入源を複数持つことが大切です。
給与だけに依存する時代から、
・給与所得
・年金所得
・事業所得
・財産所得
を組み合わせる時代へ変わりつつあります。
若いうちから少額でも資産形成を続けることで、将来の財産所得の基盤を築くことができます。
そして高齢期には、その財産所得が生活を支える役割を果たします。
働く力と資産の力を組み合わせることが、人生100年時代の新しい家計設計なのかもしれません。
結論
2025年の家計の財産所得は33.6兆円となり、20年前の約1.8倍に増加しました。金利上昇、企業の株主還元強化、新NISAの普及がその背景にあります。
これまで日本人は給与所得中心の生活を送ってきました。しかし人生100年時代には、資産が生み出す所得の重要性が高まっています。
財産所得は一夜にして増えるものではありません。長い時間をかけて積み上げた資産が将来の所得を生み出します。
これからの時代は「働いて得る所得」と「資産が生み出す所得」の両方を育てることが、豊かな老後と経済的な安心につながるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年6月7日 朝刊
「家計の利子・配当など財産所得、20年で1.8倍 金利上昇や株主還元重視」
内閣府 国民経済計算(SNA)2025年統計
金融庁 NISA・新NISA制度関連資料