相続税制度の将来を考えるうえで、近年注目されているキーワードがあります。
それが
「取得課税方式」
です。
現在の日本の相続税は、遺産総額を基準に税額を計算する仕組みを採用しています。
しかし将来的には、
「誰がどれだけ受け取ったのか」
を重視する取得課税方式へ近づいていく可能性があるともいわれています。
今回は、相続税改革の背景にある考え方について整理してみます。
現在の日本は遺産課税方式に近い
現在の相続税は、まず被相続人の遺産総額を計算します。
そのうえで、
法定相続分で取得したものと仮定して税額を計算し、
最後に各相続人へ配分します。
つまり、
「誰が取得したか」
よりも、
「遺産全体がいくらか」
を重視する仕組みです。
そのため、同じ遺産総額であれば、実際の分割内容が異なっても税額への影響は限定的です。
この考え方は遺産課税方式に近いものといえます。
取得課税方式とは何か
取得課税方式では考え方が異なります。
中心となるのは、
「受け取った人」
です。
例えば、
長男が1億円取得
長女が1000万円取得
という場合、
それぞれが受け取った財産額に応じて課税します。
税金の主体は遺産ではなく取得者です。
所得税に近い考え方ともいえるでしょう。
なぜ取得課税方式が注目されるのか
背景には資産格差の拡大があります。
同じ1億円の遺産でも、
一人で取得する場合
五人で分ける場合
では受け取る利益が大きく異なります。
しかし現在の制度では、遺産総額を中心に税額を計算するため、取得者ごとの経済的利益が十分反映されているとはいえません。
取得課税方式では、
受け取った財産額
過去の贈与
生涯の取得総額
などを考慮しやすくなります。
そのため公平性が高いという考え方があります。
生涯課税との親和性
取得課税方式が注目されるもう一つの理由は、生涯課税との相性です。
現在の制度は、
相続税
贈与税
を別々に考えています。
しかし将来的に生涯課税が導入される場合、
その人が一生の間に受け取った財産
を把握する必要があります。
そうなると、
「遺産全体」
ではなく、
「取得者ごとの累積額」
を管理する仕組みの方が合理的です。
取得課税方式は、生涯課税制度の土台にもなり得る考え方なのです。
超高齢社会との関係
2040年の日本では、
90代の親
70代の子
50代の孫
という家族構成がさらに増えると予想されます。
その結果、
子より孫へ直接承継する
複数世代へ分散して承継する
というケースも増えるでしょう。
その際、
誰がどれだけ受け取ったか
を重視する取得課税方式の方が制度として整合性を持ちやすくなります。
超高齢社会は相続税の考え方そのものを変える可能性があります。
海外では一般的な考え方
欧州諸国の中には取得課税方式に近い制度を採用している国があります。
また相続税そのものを廃止している国でも、
キャピタルゲイン課税
受贈者課税
など別の形で資産移転に課税しています。
世界的に見ると、
誰が取得したか
を重視する考え方は決して珍しくありません。
日本でも今後の税制改革議論の中で参考にされる可能性があります。
実現への課題
もっとも取得課税方式には課題もあります。
過去の贈与履歴の管理
生涯取得額の把握
マイナンバーとの連携
行政コストの増加
などです。
制度は公平になる一方で、運営は複雑になります。
そのためデジタル行政の進展が前提条件になるでしょう。
相続税の目的は何か
この議論の本質は税率ではありません。
相続税を何のために課すのかという問題です。
税収確保なのか。
富の再分配なのか。
世代間格差の是正なのか。
若い世代への資産移転促進なのか。
目的によって望ましい制度は変わります。
取得課税方式が注目される背景には、相続税を再分配政策として位置付ける考え方があるのです。
結論
現在の日本の相続税は遺産課税方式に近い仕組みを採用しています。
しかし超高齢社会の進展や生涯課税の議論を考えると、将来的には取得課税方式の考え方が強まる可能性があります。
その背景にあるのは、
「遺産がいくらあるか」
ではなく、
「誰がどれだけ受け取ったか」
を重視しようとする発想です。
2040年の相続税がどのような制度になっているかは分かりません。
しかし今後の税制改革は、資産承継そのものではなく、資産を受け取る側に着目した制度へ少しずつ移行していくのかもしれません。
参考
財務省
「相続税・贈与税の一体化に関する資料」
税制調査会
「資産課税のあり方に関する議論」
国税庁
「相続税のあらまし」
日本経済新聞 2026年6月1日朝刊
「財産は子より孫に渡した方がよいのか 三世代承継編」
日本経済新聞 2026年6月1日朝刊
「相続はなぜ高齢者から高齢者への資産移転になったのか」