日本の医療保険制度は「国民皆保険」のもとで世界的にも高い評価を受けています。しかし、その財源の多くを支えている現役世代の負担は年々重くなっています。
少子高齢化が進むなか、医療費は増加を続けています。一方で、保険料を負担する現役世代の人口は減少しています。この構造的な問題に対処するため、政府は医療保険制度の見直しを進めています。
2026年には健康保険法等の改正法が成立し、OTC類似薬の自己負担見直しなどが盛り込まれました。しかし、その効果は限定的との指摘もあります。今回は、医療保険制度改革の現状と今後の論点について考えてみます。
現役世代の負担はなぜ増え続けるのか
日本の公的医療保険制度は、現役世代が納める保険料と税金によって支えられています。
高齢化が進むと医療サービスを利用する人が増えます。特に75歳以上の後期高齢者は医療費が高くなる傾向があります。
その結果、健康保険組合や協会けんぽが負担する後期高齢者支援金も増加しています。
会社員の給与明細を見ると、健康保険料や介護保険料の負担が年々増加していることがわかります。賃上げが行われても社会保険料負担の増加によって手取りが伸びにくい状況が続いています。
現役世代の負担抑制は、社会保障改革の大きな課題となっています。
OTC類似薬の見直しとは何か
今回の法改正で注目されたのがOTC類似薬の取り扱いです。
OTCとは薬局やドラッグストアで購入できる一般用医薬品のことです。現在は同じような効能を持つ薬であっても、医療機関で処方を受けると健康保険が適用されるケースがあります。
改正後は抗アレルギー薬や解熱鎮痛剤、湿布薬など一定の薬について追加負担が求められます。
制度の狙いは、軽症の場合には市販薬の利用を促し、医療費を抑制することにあります。
ただし、削減効果は年間約900億円とされ、医療保険料への影響は1人あたり年間400円程度と見込まれています。
医療保険財政全体から見れば一定の効果はあるものの、抜本改革とは言い難い規模です。
なぜ保険適用除外の議論が出ているのか
改革論者の中には、OTC類似薬を原則として保険適用から外すべきだという意見があります。
その背景には「お薬受診」と呼ばれる問題があります。
比較的軽い症状でも薬を処方してもらうためだけに医療機関を受診するケースが存在すると指摘されています。
保険適用を外せば、薬剤費だけでなく再診料や処方箋料などの医療費削減も期待できます。
一方で、患者負担が増えることによって必要な受診まで控える可能性があるとの懸念もあります。
医療費抑制と受診機会の確保をどのように両立させるかが重要な課題です。
高齢者負担の見直しは避けられないのか
医療保険制度改革では、高齢者負担のあり方も大きな論点となっています。
現在の窓口負担割合は年齢によって異なります。
一般的には69歳以下が3割、70歳から74歳は2割、75歳以上は1割となっています。
しかし、高齢者の中にも十分な所得や金融資産を保有している人が増えています。
そのため、年齢だけでなく所得や金融資産の状況も考慮して負担能力に応じた制度へ見直すべきだという議論があります。
今回の改正では、株式配当などの金融所得情報を後期高齢者医療制度で把握しやすくする仕組みが導入されました。
将来的には金融所得や資産状況を保険料や窓口負担の判定に反映する方向で議論が進む可能性があります。
高額療養費制度との関係
高齢者負担を見直す際に重要となるのが高額療養費制度です。
この制度は、1か月の医療費負担が一定額を超えた場合に超過分を払い戻す仕組みです。
仮に窓口負担を年齢に関係なく原則3割へ統一したとしても、高額療養費制度によって重い病気や長期治療を受ける人への配慮は可能です。
今後は「年齢による一律区分」から「負担能力に応じた負担」へと制度設計が変わっていく可能性があります。
医療保険制度改革の本質
医療保険制度改革は単なる負担増の議論ではありません。
本質は、限られた財源の中で国民皆保険を将来世代まで維持できるかという問題です。
高齢者が増え、現役世代が減少する社会では、これまでと同じ仕組みを維持することは難しくなります。
そのため、給付の見直し、負担の見直し、予防医療の推進、デジタル化による効率化などを組み合わせた総合的な改革が求められています。
医療制度改革は痛みを伴う議論になりやすいテーマですが、持続可能な制度を維持するためには避けて通れない課題と言えるでしょう。
結論
OTC類似薬の見直しは、医療保険制度改革の第一歩に過ぎません。現役世代の保険料負担を本格的に抑制するためには、高齢者負担のあり方や保険給付の範囲について、さらに踏み込んだ議論が必要です。
今後は年齢による区分から負担能力を重視する方向へ制度が変化する可能性があります。医療保険制度は私たち全員に関わる社会インフラです。制度の持続可能性と公平性をどのように両立するのかが、これからの社会保障改革の重要なテーマになるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年6月3日朝刊
「現役負担抑制へ医療保険の改革を急げ」
健康保険法等の一部を改正する法律関係資料
厚生労働省 医療保険制度改革関連資料