インボイス制度が始まってから、「この支払いはインボイスが必要なのか」という判断に悩む場面が増えました。その中でも実務上よく問題になるのが、派遣社員や出向社員の出張旅費、そして採用活動に関する交通費の取扱いです。
従業員への出張旅費については、一定の要件を満たせばインボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる「出張旅費等特例」があります。しかし、その対象となるのは誰なのか、どのような支払い方法であれば適用できるのかについては、意外と誤解も少なくありません。
今回は、派遣社員や内定者、採用面接者への交通費等を中心に、出張旅費等特例の考え方を整理します。
出張旅費等特例とは何か
消費税では、原則として仕入税額控除を受けるためにはインボイスの保存が必要です。
しかし、従業員等に支給する出張旅費、宿泊費、日当などについては、事業活動に必要な支出であることが明らかであり、個々の支払いごとにインボイスを取得することが現実的ではありません。
そこで、通常必要と認められる出張旅費等については、一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除を認める特例が設けられています。これが出張旅費等特例です。
派遣社員の出張旅費はどう扱うのか
派遣社員や出向社員が出張する場合、支払い方法によって取扱いが異なります。
派遣元企業へ支払う場合
派遣先企業が派遣元企業へ出張旅費相当額を支払うケースがあります。
この場合、派遣先企業から見れば、人材派遣サービスの対価の一部として支払っていることになります。
したがって、出張旅費等特例は適用されず、派遣元企業から交付されるインボイスの保存が必要になります。
実務上は「旅費だから特例が使える」と考えがちですが、実際には誰に対して支払っているのかが重要です。
派遣元企業を通じて本人へ支払う場合
一方で、派遣元企業が単なる取次ぎ役となり、派遣先企業から預かった旅費をそのまま派遣社員本人へ支払う場合があります。
この取扱いが派遣契約や出向契約などで明確にされている場合には、派遣先企業は出張旅費等特例を適用することができます。
この場合、派遣元企業は単なる立替払いを行っているだけであり、自ら仕入税額控除を行うことはできません。
契約内容や精算方法を明確にしておくことが重要になります。
内定者の交通費は対象になるのか
採用活動では、内定者説明会や研修などに参加するための交通費を企業が負担することがあります。
この場合は、企業との間で労働契約が成立しているかどうかが判断のポイントになります。
例えば、
・採用内定通知を受けている
・入社誓約書を提出している
・入社を前提とした関係が成立している
といった事情がある場合には、労働契約が成立していると認められる可能性があります。
その場合、支給する交通費等は出張旅費等特例の対象になります。
採用面接者への交通費はどうなるのか
採用面接のために応募者へ交通費を支給する企業もあります。
しかし、採用面接者は通常、まだ従業員等には該当しません。
そのため、支給する交通費については出張旅費等特例を適用することはできません。
採用活動に必要な支出であっても、従業員等への支払いではないためです。
ここは内定者との大きな違いであり、実務上も注意が必要なポイントです。
公共交通機関特例が使える場合もある
出張旅費等特例が適用できない場合でも、仕入税額控除がまったく認められないわけではありません。
例えば、派遣社員や内定者、採用面接者を通じて鉄道やバスなどの公共交通機関へ支払ったものと実質的に同じと考えられる場合があります。
このようなケースでは、「公共交通機関特例」の適用が検討できます。
公共交通機関特例では、船舶、バス、鉄道または軌道による旅客運送について、3万円未満の支払いであれば帳簿のみの保存によって仕入税額控除が認められます。
実務では、出張旅費等特例が使えない場合でも、公共交通機関特例の適用可能性を確認することが重要です。
制度の趣旨を理解することが重要
インボイス制度では、形式的に「交通費だから特例が使える」と考えるのではなく、その支払いの実態を見ることが求められています。
誰に支払っているのか。
その人は従業員等に該当するのか。
実質的に公共交通機関へ支払ったものと考えられるのか。
こうした点によって適用できる特例が変わります。
制度を正しく理解し、契約書や精算書類を整備しておくことが、仕入税額控除の適正な適用につながります。
結論
派遣社員や内定者等に関する旅費交通費は、支払方法や対象者の立場によってインボイスの要否が大きく異なります。
派遣元企業への支払いであればインボイス保存が必要となる一方、派遣社員本人への支払いで一定の要件を満たす場合には出張旅費等特例が適用できます。また、内定者は労働契約の成立状況によって判断が分かれ、採用面接者への交通費は原則として特例の対象外となります。
インボイス制度では、支出の名称ではなく取引の実態が重要です。経理担当者や税理士は、契約内容や支払いの流れを確認しながら適切な処理を行うことが求められます。
参考
・税のしるべ 2026年5月25日 連載「インボイス制度の再確認」第7回/派遣社員や内定者等への出張旅費等
・国税庁 消費税インボイス制度に関するQ&A(適格請求書等保存方式)