相続手続きはなぜこんなに大変なのか(相続実務編)

FP
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相続は誰にでも起こり得る出来事です。

ところが、実際に家族が亡くなり相続手続きを経験した人の多くが、「こんなに大変だとは思わなかった」と口にします。

役所への届け出、金融機関での手続き、不動産の名義変更、相続税の申告など、やるべきことは数多くあります。

悲しみに暮れる間もなく、期限のある手続きに追われることも珍しくありません。

なぜ相続手続きはこれほど複雑なのでしょうか。

今回は、相続実務の現場からその理由を考えてみます。

相続手続きは一つではない

まず理解しておきたいのは、「相続手続き」という単一の手続きが存在するわけではないということです。

実際には、

・死亡届の提出

・健康保険証の返却

・年金手続き

・金融機関への届け出

・不動産の相続登記

・相続税申告

・各種契約の解約や名義変更

など、多数の手続きの集合体です。

しかも、それぞれ担当窓口が異なります。

市区町村役場、年金事務所、法務局、税務署、金融機関などを個別に回らなければなりません。

これが相続手続きを複雑に感じる最大の理由です。

戸籍収集が最初の壁になる

相続手続きで最初に直面するのが戸籍収集です。

金融機関や法務局では、

「誰が法定相続人なのか」

を確認する必要があります。

そのため、

・出生から死亡までの戸籍

・除籍謄本

・改製原戸籍

などを取得しなければなりません。

本籍地が複数ある場合は、それぞれの自治体から取り寄せる必要があります。

転籍を繰り返している場合には、数十通の戸籍が必要になることもあります。

最近は戸籍の広域交付制度が始まりましたが、それでも戸籍収集が相続実務の最初の難関であることに変わりはありません。

相続人全員の協力が必要になる

相続財産の名義変更には、相続人全員の合意が必要になることが少なくありません。

例えば預金の解約では、

・遺産分割協議書

・相続人全員の署名

・実印押印

・印鑑証明書

などが求められます。

相続人が遠方に住んでいる場合や、兄弟姉妹の仲が良くない場合は手続きが大幅に遅れることがあります。

また、相続人の一人と連絡が取れないだけで手続きが進まなくなるケースもあります。

法律上の問題よりも、人間関係の問題で苦労することは決して珍しくありません。

財産調査に予想以上の時間がかかる

相続財産は自動的に一覧表が出てくるわけではありません。

相続人自身が調査しなければなりません。

例えば、

・預金口座

・証券口座

・生命保険

・不動産

・借入金

・クレジットカード

・電子マネー

・ポイント

などです。

近年はインターネット取引が増えたことで、家族が資産の存在を把握できないケースも増えています。

特にネット証券や暗号資産、電子マネーなどは、本人しか把握していない場合があります。

相続実務では「財産を探す作業」が大きな負担になっています。

不動産があるとさらに複雑になる

相続財産に不動産が含まれる場合、難易度は一段上がります。

不動産は現金のように簡単に分割できません。

例えば、

・自宅を誰が相続するのか

・共有にするのか

・売却して分けるのか

などを決める必要があります。

さらに相続登記も必要です。

2024年から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しなければ過料の対象になる可能性があります。

不動産は相続トラブルの原因になりやすく、専門家への相談が必要になることも少なくありません。

相続税がなくても安心ではない

「相続税がかからないから大丈夫」

と思っている人もいます。

しかし、相続税の有無と相続手続きの大変さは別問題です。

実際には、

・相続税申告不要

・遺産分割必要

・預金解約必要

・相続登記必要

というケースが数多くあります。

相続税の課税対象者は全体の一部ですが、相続手続きそのものはほぼ全ての相続で発生します。

そのため、税金対策だけでなく手続き対策も重要になります。

生前準備で負担は大きく減らせる

相続手続きが大変になる理由の多くは、事前準備が不足していることにあります。

例えば、

・財産一覧表を作る

・通帳や証券口座を整理する

・エンディングノートを書く

・遺言書を作成する

・家族に情報を共有する

といった準備をしておくだけでも大きく違います。

最近は「終活」という言葉も定着しました。

終活とは単に葬儀準備ではなく、残された家族の負担を減らす活動とも言えるでしょう。

結論

相続手続きが大変なのは、制度が複雑だからだけではありません。

戸籍収集、財産調査、相続人間の調整、不動産の承継など、多くの課題が同時に発生するためです。

そして、その多くは亡くなってから初めて問題として表面化します。

相続対策というと節税に注目が集まりがちですが、実際には「家族が困らずに手続きを終えられること」も同じくらい重要です。

人生100年時代においては、財産を残す準備だけでなく、残された家族が安心して相続手続きを進められる準備も必要なのではないでしょうか。

参考

・法務省「相続登記の申請義務化に関する資料」

・国税庁「相続税のあらまし」

・法務省「戸籍制度に関する資料」

・日本司法書士会連合会「相続手続きに関する解説資料」

・一般社団法人信託協会「信託制度に関する資料」

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