2022年以降、日本は複数回のインフレ局面を経験してきました。
最初は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機としたエネルギー・資源価格の高騰でした。
次に、2024年以降にはコメ価格の急騰を中心とした食料インフレが家計を圧迫しました。
そして現在、市場では「第3波」の物価上昇への警戒感が強まりつつあります。
背景にあるのは、中東情勢緊迫による原油高、人件費上昇、包装資材価格上昇、物流費増加など、多層的なコスト増です。これまでのような単一要因ではなく、「複数コストの同時上昇」が起きている点に、今回の特徴があります。
物価高は一時的な現象ではなく、日本経済の構造変化として定着し始めている可能性があります。
これまでの「インフレ第1波・第2波」
2022年以降の日本の物価上昇は、大きく2段階で進行しました。
第1波は、ウクライナ危機を契機とした資源価格高騰です。
原油、天然ガス、小麦、飼料、肥料などが世界的に急騰し、日本国内でも電気代、ガス代、ガソリン代、食品価格が大幅に上昇しました。
当時の特徴は、「輸入インフレ」でした。
日本企業の多くは原材料を海外依存しており、円安も重なったことで、海外の物価上昇がそのまま国内価格へ波及しました。
第2波は、2024年以降のコメ価格高騰です。
猛暑や需給逼迫、流通問題などが重なり、「令和のコメ騒動」と呼ばれる状況になりました。日本人の主食であるコメ価格上昇は、外食産業や中食産業にも広く波及し、食品価格全体を押し上げました。
特に外食価格は高止まりし、消費者の節約志向も強まりました。
つまり、日本のインフレは、
- 資源価格高騰
- 食料価格高騰
という二段階で進行してきたことになります。
「第3波」の特徴は“複合型インフレ”
現在懸念されている第3波は、これまでとは構造が異なります。
最大の特徴は、「複合型インフレ」であることです。
具体的には、
- 原油高
- 人件費上昇
- 包装資材価格高騰
- 物流費増加
- サービス価格上昇
が同時に進行しています。
これは企業にとって極めて厳しい局面です。
例えば食品メーカーの場合、
- 原材料価格
- 容器包装費
- 配送コスト
- 人件費
のすべてが上昇します。
これまでは一部コストだけなら企業努力で吸収できました。しかし複数コストが同時上昇すると、価格転嫁を避けることが難しくなります。
特に2026年は賃上げ圧力が強く、人件費上昇がサービス価格へ波及し始めています。
日本では長年、「サービス価格は上がりにくい」とされてきました。しかし、人手不足が深刻化する中で、その前提が崩れ始めています。
なぜ“包装資材”が重要なのか
今回の物価上昇で見落とされがちなのが、包装資材価格です。
食品価格というと、原材料価格ばかり注目されます。しかし実際には、
- 容器
- フィルム
- ペットボトル
- 段ボール
- ラベル
- トレー
など、多くの包装資材が必要です。
これらの多くは石油由来製品であり、原油価格上昇の影響を受けます。
さらに物流費も上昇しています。
2024年問題以降、トラック運転手不足が深刻化し、配送コストは構造的に上がりやすくなっています。
つまり現在は、
「商品そのもの」だけでなく、「運ぶコスト」「包むコスト」まで上がっている状態です。
これは、あらゆる商品の値上げ圧力につながります。
政府補助金では抑えきれない可能性
政府はガソリン補助金などを通じて、エネルギー価格上昇を抑え込もうとしています。
しかし問題は、補助金には限界があることです。
まず、財政負担が極めて重くなります。
さらに補助金は「表面的な価格」を抑えても、企業側のコスト増そのものを消せるわけではありません。
企業は結局、
- 値上げ
- 内容量減少
- 品質調整
- サービス縮小
などで対応せざるを得なくなります。
近年増えている「ステルス値上げ」は、その象徴とも言えます。
つまり、政府支援によって一時的に消費者価格を抑えても、コスト上昇圧力自体は経済内部に蓄積され続けるのです。
日本は“低インフレ国家”ではなくなるのか
日本は長年、「物価が上がらない国」と言われてきました。
しかし現在は、その前提が変わり始めています。
背景には、
- 人口減少
- 人手不足
- 脱グローバル化
- 地政学リスク
- エネルギー安全保障問題
などがあります。
かつての日本は、
- 安い輸入品
- 豊富な労働力
- デフレ環境
によって低価格を維持できました。
しかし現在は、
- 労働力不足
- 輸入コスト増
- 世界的インフレ
- 円安
が重なり、「安さを維持する経済構造」そのものが崩れ始めています。
特に重要なのは、人件費上昇が定着し始めていることです。
賃上げ自体は望ましい面がありますが、同時にサービス価格上昇を伴います。
つまり今後の日本は、
「賃金も上がるが、物価も上がる社会」
へ移行していく可能性があります。
家計と企業はどう備えるべきか
今後のインフレ局面では、家計も企業も「価格上昇を前提にした行動」が必要になります。
家計では、
- 現預金偏重の見直し
- 長期資産形成
- 固定費管理
- エネルギー支出管理
の重要性が高まります。
一方、企業では、
- 価格転嫁戦略
- 原価管理
- 省人化投資
- エネルギー効率改善
が重要になります。
特に中小企業は、「値上げできる企業」と「値上げできない企業」で格差が広がる可能性があります。
価格転嫁力そのものが、企業の生存力になりつつあるのです。
結論
2022年以降、日本は資源高、食料高という二度のインフレ波を経験しました。
そして現在は、
- 原油高
- 人件費上昇
- 包装資材高騰
- 物流費増加
- サービス価格上昇
が重なる「第3波」への警戒感が高まっています。
今回の特徴は、単なる一時的な物価上昇ではなく、日本経済の構造変化が背景にあることです。
長年続いた「低インフレ国家・日本」は転換点を迎えている可能性があります。
これからの時代は、「物価が上がらない前提」で生活や経営を考えること自体がリスクになるのかもしれません。
参考
・日本経済新聞 2026年5月23日朝刊「インフレ『第3波』の足音」
・総務省「消費者物価指数」
・日本銀行「物価安定目標に関する資料」
・企業物価指数関連資料
・SMBC日興証券 宮前耕也氏コメント関連報道