「終身雇用はもう崩壊した」
日本では長年、この言葉が繰り返されてきました。
実際、
- リストラ
- 早期退職募集
- 非正規雇用拡大
- ジョブ型雇用
- 転職市場拡大
などを見ると、日本型雇用は大きく変化しているように見えます。
しかし一方で、多くの日本企業では依然として、
- 新卒一括採用
- 長期育成
- 社内異動
- 年功的昇進
- メンバーシップ型雇用
が根強く残っています。
つまり、日本型終身雇用は「消滅」したというより、「形を変えて延命」している可能性があります。
本記事では、日本企業の終身雇用は本当に終わったのか、それとも静かに姿を変えながら続いているのかを考察します。
「終身雇用」とは何だったのか
まず重要なのは、「終身雇用」は法律上の制度ではないという点です。
日本企業における終身雇用とは、
- 新卒で採用
- 長期間雇用
- 社内で育成
- 定年まで勤務
という慣行の総称です。
これは単独では成立していませんでした。
終身雇用は、
- 年功賃金
- 企業別労働組合
- 新卒一括採用
- 社内配置転換
などと一体で機能していたのです。
企業側は長期雇用を前提に人材育成を行い、従業員側は会社への帰属意識を高める。
高度成長期の日本では、この仕組みが非常に強い競争力を生みました。
なぜ「終身雇用崩壊」が語られたのか
転機となったのは1990年代以降です。
バブル崩壊後、日本企業は長期低成長時代へ入りました。
そのなかで、
- 人件費固定化
- 過剰雇用
- グローバル競争
- 株主重視経営
が強まり、終身雇用の維持コストが問題視されるようになります。
さらに、
- 成果主義
- 非正規雇用
- 中途採用
- 外資系企業流入
なども拡大しました。
2019年には、経団連の中西宏明会長(当時)が、
「終身雇用を続けていくのは難しい」
と発言し、大きな話題になりました。
これにより、「終身雇用崩壊論」がさらに広がったのです。
それでも日本企業は大量解雇を避け続けた
しかし興味深いのは、日本企業が欧米型雇用へ完全移行したわけではない点です。
実際には、
- 配置転換
- 出向
- 役職定年
- 早期退職募集
- 再雇用
などを使いながら、「正社員の大量解雇」は極力回避してきました。
特に大企業では、
「正社員を簡単には辞めさせない」
文化は依然として強く残っています。
これは単なる情緒論ではありません。
日本企業では、
- 業務範囲が曖昧
- 社内調整が多い
- 長期的人間関係が重要
- OJT依存が強い
という特徴があるため、短期雇用型と相性が悪いのです。
つまり、日本企業の組織構造自体が、依然として長期雇用を前提に作られているのです。
「メンバーシップ型」は本当に消えるのか
近年、「ジョブ型雇用」が注目されています。
ジョブ型とは、
- 職務内容を明確化
- 職務単位で採用
- 職務に応じて賃金決定
する仕組みです。
一方、日本型雇用は「メンバーシップ型」と呼ばれます。
こちらは、
- 人に仕事を割り当てる
- 職務範囲が曖昧
- 異動を前提に育成
する仕組みです。
現在、多くの企業がジョブ型導入を掲げています。
しかし実際には、
- 総合職制度
- 定期異動
- 長期育成
は依然として広く残っています。
つまり、「ジョブ型化」が進んでいるように見えても、日本企業の根幹ではメンバーシップ型が維持され続けているのです。
日本企業は「部分的ジョブ型」に向かう可能性
今後、日本企業は完全ジョブ型ではなく、
「部分的ジョブ型」
へ向かう可能性があります。
例えば、
- 管理職のみジョブ型
- 専門職のみ職務給
- 若手は従来型
- 高齢者は役割給
などです。
つまり、日本型雇用を完全否定するのではなく、一部だけ修正する方向です。
これは「終身雇用の消滅」というより、
「終身雇用の制度変容」
と表現した方が実態に近いかもしれません。
人手不足が「終身雇用」を延命させる皮肉
近年、日本では深刻な人手不足が続いています。
この結果、企業は以前よりも、
「人を簡単に手放せない」
状況になっています。
特に、
- 技術職
- IT人材
- 管理職
- 現場技能者
などは慢性的不足状態です。
そのため企業は、
- リスキリング
- 社内異動
- 長期囲い込み
を強化しています。
これは結果的に、「長期雇用」を再強化する方向にも働いています。
つまり皮肉なことに、
「人材流動化時代」
と言われながら、人手不足が終身雇用的発想を延命させている側面もあるのです。
AI時代に終身雇用はどう変わるのか
今後、AI普及によって雇用制度はさらに変化する可能性があります。
単純業務の自動化が進めば、
- 事務職
- 中間管理業務
- 定型作業
は縮小する可能性があります。
一方で、
- 顧客対応
- 社内調整
- 育成
- 創造業務
など、人間的要素の強い仕事は残るとも言われます。
その結果、日本企業では、
「全員を同じように長期雇用する」
のではなく、
- 中核人材
- 専門人材
- プロジェクト人材
などへ分化する可能性があります。
つまり終身雇用は、
「全社員一律制度」
から、
「選別型長期雇用」
へ変質していくかもしれません。
「会社に人生を預ける」という感覚は消えるのか
終身雇用の本質は、単なる雇用契約ではありません。
そこには、
「会社と人生を一体化する」
という感覚がありました。
しかし現在は、
- 副業
- 転職
- キャリア自律
- リモートワーク
などが広がり、この価値観自体が変わり始めています。
それでも日本では依然として、
- 安定志向
- 大企業志向
- 公務員人気
は根強く存在しています。
つまり日本社会では、
「自由な転職社会」
を志向しながらも、
「安定した長期雇用」
への期待も同時に残っているのです。
結論
日本型終身雇用は、「完全崩壊」したわけではありません。
むしろ現在は、
- ジョブ型導入
- 成果主義
- 人材流動化
を取り込みながら、「静かに形を変えて延命」している段階なのかもしれません。
日本企業の組織構造そのものが、依然として長期雇用を前提に動いているからです。
一方で、従来型の、
- 一律年功制
- 全員同型キャリア
- 定年まで自動昇進
は維持が難しくなっています。
今後は、
「終身雇用か否か」
ではなく、
「誰を、どのように長期雇用するのか」
が重要な論点になっていくでしょう。
終身雇用は終わったのではなく、日本社会の変化に合わせて「変質」しながら生き残ろうとしているのかもしれません。
参考
・日本経済新聞 各種雇用関連記事
・経団連 中西宏明氏発言(2019年)
・厚生労働省「雇用政策研究会報告書」
・独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)各種調査
・経済産業省「人材版伊藤レポート」