「70歳就業時代」に日本企業の賃金制度は耐えられるのか(雇用制度編)

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日本では「70歳まで働く社会」が現実味を帯び始めています。

高年齢者雇用安定法の改正により、企業には70歳までの就業機会確保が努力義務として求められるようになりました。実際に、多くの企業で定年延長や再雇用制度の拡大が進んでいます。

しかし、ここで大きな問題となるのが「賃金制度」です。

従来の日本型雇用は、

  • 新卒一括採用
  • 長期雇用
  • 年功的賃金
  • 定年退職

という仕組みを前提に設計されてきました。

ところが、70歳まで働くことが当たり前になると、この制度設計そのものが限界を迎える可能性があります。

本記事では、「70歳就業時代」に日本企業の賃金制度は維持できるのかについて考察します。

日本型賃金制度は「60歳定年」を前提に作られていた

日本企業の賃金体系は、長年にわたり「後払い型」と言われてきました。

若い頃は生産性より低い賃金で働き、年齢とともに賃金が上昇していく構造です。

これは、

  • 長期勤続
  • 企業内教育
  • 終身雇用

と強く結びついていました。

企業側は、

「若い頃に育成投資を行い、後年に回収する」

という考え方で人事制度を設計していたのです。

そのため、50代後半の賃金には、

  • 現在の仕事
  • 過去の貢献
  • 長期勤続への報酬
  • 将来の退職

など、様々な要素が混在しています。

しかし、70歳まで雇用を延長すると、このバランスが崩れ始めます。

「定年後再雇用」で調整してきた日本企業

これまで日本企業は、

  • 60歳定年
  • 65歳再雇用

という形で制度調整を行ってきました。

定年でいったん雇用契約を終了させ、その後は嘱託社員などとして再雇用する方式です。

この仕組みの最大の目的は、「賃金リセット」にありました。

つまり、

  • 定年前の高い年功賃金
  • 再雇用後の低い職務型賃金

へ移行することで、人件費を調整してきたのです。

実際、多くの企業では再雇用後に賃金が大きく下がります。

しかし近年、この仕組みは「同一労働同一賃金」と衝突し始めています。

「同じ仕事なのに給与だけ半分」は維持できるのか

近年の裁判例では、

  • 仕事内容
  • 責任
  • 配置変更範囲

などがほぼ同じであるにもかかわらず、賃金だけ大幅に下がることに対し、厳しい視線が向けられています。

特に名古屋自動車学校事件では、

「基本給が定年前の55〜57%を下回る部分」

について不合理性が認定されました。

これは単に一企業の問題ではありません。

日本型雇用システム全体に対する問いでもあります。

つまり、

「70歳まで働くなら、いつ賃金を下げるのか」

という問題です。

従来は、

  • 60歳で定年
  • そこで賃金を大幅調整

という構造でした。

しかし70歳就業社会では、この構造自体が維持しにくくなります。

年功賃金は限界を迎えるのか

70歳就業社会で最も難しいのは、「年功賃金の持続可能性」です。

仮に60代後半まで賃金上昇が続けば、人件費は急激に膨張します。

一方で、企業収益には限界があります。

特に、

  • 中小企業
  • 地方企業
  • 労働集約型産業

では負担感が大きくなります。

そのため企業側は、

  • 職務給
  • 役割給
  • 成果給

への移行を加速させる可能性があります。

つまり、

「年齢ではなく仕事内容で賃金を決める」

方向です。

実際、大企業ではジョブ型雇用への移行議論も進んでいます。

これは単なる人事改革ではなく、「70歳就業社会への適応」でもあるのです。

それでも「完全ジョブ型」は難しい

もっとも、日本企業が完全なジョブ型へ移行できるかは別問題です。

なぜなら、日本企業では依然として、

  • 部門横断的業務
  • 曖昧な役割分担
  • 人間関係調整
  • 組織協調

が重視されているからです。

また、高齢社員には、

  • 若手育成
  • 組織知識
  • 顧客関係
  • 社内調整力

など、数値化しにくい価値もあります。

そのため、「成果だけ」で賃金を決めることも容易ではありません。

結果として今後は、

  • 年功制
  • 職務給
  • 役割給
  • 専門給

を組み合わせた「混合型賃金制度」が主流になる可能性があります。

「70歳まで働く社会」で企業は何を変えるのか

70歳就業社会では、企業は単に定年を延長するだけでは対応できません。

本当に必要になるのは、

  • 賃金制度
  • 昇進制度
  • 評価制度
  • 役職制度
  • 教育制度

全体の再設計です。

例えば、

「昇進の終点」をどうするのか

70歳まで全員が管理職では組織が詰まります。

若手との賃金逆転をどう防ぐのか

若手の処遇悪化は採用難に直結します。

高齢社員の役割をどう定義するのか

現場維持・育成・専門職など、多様化が必要になります。

「働き続けたい人」と「辞めたい人」をどう区別するのか

高齢者雇用は「一律制度」ではなく、個別設計の時代へ向かう可能性があります。

「定年」という概念自体が変わる可能性

今後は、「定年」という考え方そのものが変わる可能性もあります。

従来の定年制度は、

  • 平均寿命
  • 体力
  • 年金開始年齢

などを前提に作られていました。

しかし現在は、

  • 健康寿命の延伸
  • 人手不足
  • 年金不安
  • 労働力不足

が進んでいます。

その結果、

「60歳以降は引退準備」

ではなく、

「70代前半まで現役」

という社会像が現実になりつつあります。

これは単なる高齢者雇用問題ではありません。

日本社会全体の「働く人生」の再定義でもあるのです。

結論

「70歳就業時代」は、日本企業の賃金制度に大きな再設計を迫っています。

従来の日本型雇用は、

  • 年功賃金
  • 定年退職
  • 再雇用による賃金調整

によって成立していました。

しかし、70歳まで働く社会では、この仕組みは維持が難しくなります。

今後は、

  • 職務給
  • 役割給
  • 専門給
  • 多様な働き方

を組み合わせた新しい制度設計が求められるでしょう。

一方で、日本企業特有の組織文化や人間関係重視の働き方は簡単には消えません。

つまり今後の日本企業は、

「年功制でも完全ジョブ型でもない」

新しい中間モデルを模索していく可能性があります。

70歳就業社会とは、単なる高齢者雇用政策ではなく、日本型雇用そのものの転換点なのかもしれません。

参考

・日本経済新聞 2026年5月16日朝刊「<家計の法律クリニック>再雇用、給与減は違法か」
・最高裁判所「長沢運輸事件判決」
・最高裁判所「名古屋自動車学校事件判決」
・厚生労働省「高年齢者雇用安定法」
・厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

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