相続税対策の中で、最も有名な制度の一つが「配偶者の税額軽減」です。
実際、
- 「配偶者なら相続税はかからない」
- 「全部妻へ相続すれば安心」
- 「とりあえず配偶者へ寄せれば節税」
という話を聞いたことがある人も多いと思います。
確かに、この制度は非常に強力です。
一定範囲内であれば、配偶者は相続税が大幅に軽減されます。
しかし実務では、
「一次相続では税額ゼロだったが、二次相続で大きな税負担になった」
ケースも少なくありません。
つまり、
“今回の相続”
だけを見て判断すると、将来の税負担や家族問題につながる可能性があります。
今回は、国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」を参考にしながら、配偶者の税額軽減制度について、“二次相続”まで含めた実務上の考え方を整理していきます。
配偶者の税額軽減とは何か
配偶者の税額軽減とは、簡単に言えば、
「配偶者が取得した財産について、一定範囲まで相続税を軽減する制度」
です。
具体的には、
- 1億6,000万円
- または法定相続分
のいずれか多い金額まで、原則として相続税がかかりません。
この制度は、配偶者の生活保障という側面が強くあります。
つまり、
- 老後生活
- 居住継続
- 生活安定
を支える目的があります。
“配偶者なら税金ゼロ”ではない
ここは非常に誤解が多いポイントです。
制度上は強力ですが、
- 必ずゼロになる
- 無制限非課税
ではありません。
例えば、
- 巨額資産
- 法定相続分超過
- 二次相続
などでは、最終的な税負担が発生することがあります。
また、配偶者の税額軽減は、
「申告」
が前提です。
つまり、
- 税額ゼロ
- 申告不要
ではありません。
ここは小規模宅地等の特例と同様、実務上非常に重要です。
一次相続と二次相続
実務で最も重要なのが、
「一次相続だけで考えない」
という点です。
例えば、
父死亡
↓
母が全財産取得
↓
一次相続税ゼロ
となっても、その後、
母死亡
↓
子へ再相続
が発生します。
これが「二次相続」です。
実務では、この二次相続を考慮しないと、結果的に総税額が大きくなることがあります。
なぜ二次相続で負担が増えるのか
理由は主に3つあります。
基礎控除が減る
例えば、
一次相続
- 配偶者+子2人
- 法定相続人3人
なら、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
です。
しかし二次相続では、
- 子2人のみ
- 法定相続人2人
となり、
3,000万円+600万円×2人=4,200万円
へ減少します。
つまり、基礎控除が小さくなります。
配偶者軽減が使えない
二次相続では、当然ながら配偶者の税額軽減はありません。
つまり、
- 一次相続 → 強力軽減あり
- 二次相続 → なし
となります。
財産が配偶者へ集中する
一次相続で、
「全部配偶者へ」
とした場合、二次相続時には、その財産がまとめて再課税される可能性があります。
つまり、
- 一次相続でゼロ
- 二次相続で大きな税負担
となることがあります。
“とりあえず全部配偶者”の落とし穴
実務では、
「まず配偶者へ全部」
という分割が行われることがあります。
理由としては、
- 税額が減る
- 配偶者が安心
- 分割しやすい
などがあります。
しかし、
- 二次相続
- 子ども間不公平
- 財産管理負担
- 認知症リスク
なども考慮する必要があります。
つまり、
「一次相続だけ最小化」
が、必ずしも最適とは限りません。
小規模宅地等の特例との関係
実務では、
- 配偶者軽減
- 小規模宅地等の特例
を組み合わせるケースが多くあります。
ただしここでも、
「誰が土地を取得するか」
によって、二次相続時の状況が変わります。
例えば、
- 配偶者取得
- 子取得
では、その後の相続税や不動産承継が大きく変わる可能性があります。
そのため、
- 今回の税額
- 将来の承継
- 居住継続
まで含めた設計が必要になります。
老後資金確保とのバランス
一方で、
「節税のために配偶者へ渡さない」
ことにも注意が必要です。
配偶者には、
- 老後生活
- 医療費
- 介護費
- 生活費
があります。
特に長寿化により、
- 90代
- 100歳近い老後
も珍しくなくなっています。
つまり、
“二次相続節税”
だけで配偶者取得を減らすと、逆に生活不安につながることがあります。
不動産偏在はさらに難しい
不動産中心相続では、さらに難しくなります。
例えば、
- 自宅土地
- 賃貸不動産
- 地方土地
などです。
特に、
- 売れない不動産
- 空き家
- 共有化
などは、二次相続時に問題化しやすくなります。
また、
「配偶者が住み続ける」
ことを優先すると、分割自由度が下がることもあります。
今後は“超高齢夫婦相続”が増える可能性
現在は、
- 超高齢社会
- 認知症増加
- 単身高齢化
などにより、配偶者相続の重要性が増しています。
一方で、
- 高齢配偶者の財産管理
- 認知症後の凍結
- 成年後見
など、新たな実務課題も増えています。
つまり今後は、
「税金」
だけでなく、
- 老後生活
- 財産管理
- 家族支援
まで含めた“総合相続設計”が重要になっていく可能性があります。
結論
配偶者の税額軽減は、相続税実務で非常に強力な制度です。
特に、
- 1億6,000万円
- または法定相続分
まで大幅軽減されるため、一次相続の税額を大きく下げられる可能性があります。
しかし実務では、
- 二次相続
- 基礎控除減少
- 配偶者軽減消失
- 財産集中
などにより、将来的な税負担が増えるケースもあります。
また、
- 老後資金
- 不動産管理
- 認知症リスク
- 家族関係
なども含めて考える必要があります。
だからこそ、配偶者相続は、
「今回の税額だけ」
ではなく、
- 二次相続
- 長寿リスク
- 家族構成
- 不動産承継
まで含めた長期視点で考えることが重要になります。
次回は、「不動産評価はなぜ揉めやすいのか(財産評価編)」をテーマに、路線価・倍率方式・時価との違い・タワーマンション問題など、“相続税評価”の難しさを整理していきます。
参考
国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」令和7年4月
国税庁「配偶者の税額軽減」令和7年
国税庁「タックスアンサー 相続税」令和7年