超高齢社会の日本で、静かに深刻化している問題があります。
それが、「移動できない高齢者」の増加です。
高齢者問題というと、
- 年金
- 医療
- 介護
- 認知症
などが注目されがちです。
しかし実際には、その前段階にあるのが“移動”の問題です。
病院へ行けない。
買い物へ行けない。
人と会えない。
地域活動へ参加できない。
つまり、「移動できない」ことは、単なる交通問題ではありません。
それは、
- 孤立
- 健康悪化
- フレイル
- 認知症
- 生活困窮
につながる、“生活基盤の喪失”でもあるのです。
超高齢社会では、「移動」が新しい社会保障になり始めています。
なぜ“移動弱者”が増えるのか
高齢者が移動できなくなる背景には、複数の要因があります。
まず大きいのが、身体機能低下です。
加齢によって、
- 歩行速度低下
- 筋力低下
- 視力低下
- 平衡感覚低下
などが起きます。
若い時には問題なかった坂道や階段も、高齢になると大きな負担になります。
次に、運転免許返納です。
高齢ドライバー事故が社会問題化するなか、免許返納が進んでいます。
しかし地方では、車が生活インフラです。
- 病院
- スーパー
- 銀行
- 行政窓口
が遠距離に分散している地域も少なくありません。
つまり、
「免許返納=移動手段喪失」
になる場合があるのです。
“車社会”が高齢化した
日本の郊外化は、基本的に「車で移動できる」ことを前提に進みました。
高度成長期以降、
- 郊外住宅地
- ロードサイド店舗
- 大型ショッピングセンター
が拡大しました。
当時は、若い世代が車を運転していたため成立しました。
しかし現在、その世代が高齢化しています。
つまり日本はいま、
「車依存型社会が、そのまま高齢化した」
状態なのです。
これは非常に大きな問題です。
地方では“移動=生存”になる
特に地方では、移動問題は深刻です。
都市部なら、
- 電車
- バス
- 徒歩圏施設
があります。
しかし地方では、
- バス減便
- 鉄道廃線
- スーパー撤退
が進んでいます。
その結果、
「移動できない=生活できない」
状態に近づく地域もあります。
例えば、
- 通院断念
- 買い物頻度減少
- 外出機会消失
などです。
つまり交通弱者問題は、生活インフラ問題でもあるのです。
“外出しない”ことが健康を壊す
高齢者にとって、移動は健康そのものと深く関係しています。
外出が減ると、
- 歩行量低下
- 筋力低下
- 会話減少
- 社会接点喪失
が起きます。
その結果、
- フレイル
- 抑うつ
- 認知機能低下
などが進みやすくなります。
つまり、「移動できない」ことは、単なる不便ではありません。
人間関係や身体機能まで含めた悪循環を生み出すのです。
商店街消失ともつながっている
以前の記事で触れた商店街問題とも深く関係しています。
昔は、
- 八百屋
- 魚屋
- 薬局
などが徒歩圏にありました。
しかし現在は、
- 大型店集約
- 郊外化
- EC化
が進んでいます。
その結果、高齢者は「遠くへ行かなければ生活できない」構造になりました。
つまり現代都市は、
「移動能力がある人」
を前提に設計されているのです。
“交通”ではなく“接点”が失われる
ここで重要なのは、高齢者が失うのは単なる移動手段だけではないことです。
失われるのは、
- 外出理由
- 会話機会
- 顔見知り関係
- 地域参加
でもあります。
例えば買い物は、
- 食料購入
- 運動
- 会話
- 気分転換
を同時に含んでいました。
しかし移動できなくなると、そのすべてが失われやすくなります。
つまり交通弱者問題は、
「社会との接点喪失」
でもあるのです。
コンパクトシティは解決策になるのか
近年は、コンパクトシティ政策も進められています。
- 病院
- 商業施設
- 公共交通
を集約し、「歩いて暮らせる街」を目指す考え方です。
確かに、移動負担軽減には有効です。
しかし問題は、高齢者が簡単には移住できないことです。
多くの高齢者には、
- 長年住んだ家
- 地域の知人
- 墓
- 思い出
があります。
つまり、都市政策として合理的でも、人間は簡単に動かないのです。
バス路線維持は限界なのか
地方交通では、バス維持が大きな課題になっています。
人口減少により、
- 利用者減少
- 運転手不足
- 赤字拡大
が進んでいます。
しかし撤退すると、高齢者生活が成り立たなくなる場合があります。
つまり地方交通は、
「採算性」
だけでは語れなくなっているのです。
これは今後さらに深刻化するでしょう。
“移動格差”が生まれ始めている
現在、日本では「移動格差」が広がっています。
例えば、
- 車を運転できる高齢者
- 運転できない高齢者
では、生活範囲が大きく異なります。
また、
- 都市部
- 地方
- 郊外
でも差があります。
つまり、移動能力が、
- 健康
- 孤立
- 寿命
- 生活満足度
まで左右し始めているのです。
自動運転は高齢社会を救うのか
期待されているのが、自動運転です。
もし普及すれば、
- 高齢者移動支援
- 地方交通維持
- 買い物支援
などに役立つ可能性があります。
しかし課題もあります。
- コスト
- 法整備
- 事故責任
- 地方インフラ
などです。
また、自動運転が実現しても、
「人との接点」
までは自動的に回復しません。
つまり、移動問題は単なる技術問題ではないのです。
移動販売や送迎サービスは増えるのか
今後は、
- 移動スーパー
- 配食サービス
- 乗合タクシー
- 地域送迎
なども重要になるでしょう。
これは単なる物流ではありません。
高齢者との接点を維持する役割もあります。
例えば移動販売は、
- 安否確認
- 会話
- 地域情報
の機能も持っています。
つまり高齢社会では、「運ぶこと」と「つながること」が一体化し始めているのです。
“歩ける範囲”が人生を決める時代
超高齢社会では、
「どこまで歩けるか」
が生活を大きく左右します。
つまり、
- 坂道
- バス停距離
- スーパー距離
- 病院距離
などが、健康や孤立に直結し始めるのです。
これは今後、住宅価値や都市政策にも影響を与える可能性があります。
移動問題は“尊厳”の問題でもある
高齢者にとって、自分で移動できることは、
- 自立
- 尊厳
- 社会参加
とも深く結びついています。
逆に、誰かに頼らなければ外出できなくなると、
- 遠慮
- 外出控え
- 孤立
につながる場合があります。
つまり移動問題は、単なる交通手段ではなく、「生き方」の問題でもあるのです。
結論
“移動できない高齢者”は、今後さらに増えていくのでしょうか。
人口構造を見る限り、その可能性は高いでしょう。
- 高齢化
- 車社会
- 地方人口減少
- 公共交通縮小
が同時進行しているからです。
そして重要なのは、「移動できない」ことが、
- 買い物
- 通院
- 孤立
- 健康
- 認知症
など、生活全体に連鎖していく点です。
超高齢社会で本当に必要なのは、
「移動をどう維持するか」
だけではありません。
人が外へ出て、誰かと接点を持ち、地域の中で暮らし続けられる環境をどう守るかです。
交通弱者問題は、単なる交通政策ではありません。
それは、
「超高齢社会で、人はどう社会とつながり続けるのか」
という、日本社会全体の問いなのです。
参考
国土交通省「地域公共交通政策資料」
内閣府「高齢社会白書」
総務省「地域交通関連資料」
国土交通省「コンパクトシティ政策関連資料」
日本経済新聞 各種地域交通関連記事