配当還元方式は本当に残るのか(制度の行方編)

税理士
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非上場株式の評価見直しにおいて、最も注目されている論点の一つが配当還元方式の扱いです。
少数株主の評価方法として長年用いられてきたこの方式が、今後も維持されるのか、それとも大きく見直されるのかは、事業承継の実務に直結する重要なテーマです。

結論からいえば、配当還元方式そのものが完全に廃止される可能性は低いと考えられます。しかし、その適用範囲や評価ロジックは、大きく見直される可能性が高い状況です。

本稿では、制度の趣旨に立ち返りながら、その行方を分析します。


配当還元方式の本来の役割

配当還元方式は、経営支配権を持たない株主の立場を反映するための評価方法です。

非上場株式は市場価格が存在しないため、原則として企業価値を基礎とした評価が行われます。しかし、少数株主にとっては、会社の意思決定に関与できない以上、その株式の価値は配当収益に限定されるという考え方があります。

このため、配当額を基礎として株価を算定する配当還元方式が、特例的に認められてきました。

この点を踏まえると、配当還元方式は単なる簡便法ではなく、株主の経済的実態に基づいた合理的な評価方法と位置付けられます。


問題視されているのは「制度の使われ方」

今回の見直しで問題視されているのは、配当還元方式の存在そのものではありません。

問題とされているのは、株主区分を形式的に操作することで、この方式を適用できる株主を意図的に作り出すスキームです。

例えば、議決権割合を分散させる、株式を親族間で分割するなどにより、少数株主の形式を整え、低い評価を適用するケースが指摘されています。

このような状況は、本来の趣旨である「経済的実態に応じた評価」から逸脱しており、見直しの対象となるのは必然といえます。


適用範囲の厳格化が最も有力な方向性

今後の見直しとして最も可能性が高いのは、配当還元方式の適用範囲の厳格化です。

具体的には、形式的な持株比率だけでなく、実質的な支配関係や経済的関係を考慮して、少数株主に該当するかどうかを判断する方向が考えられます。

これにより、単に株式を分散させただけでは配当還元方式を適用できなくなり、実質的に支配関係にある株主は原則的評価方式で評価される可能性があります。

この見直しは、評価の中立性を確保するという今回の目的に整合的です。


配当還元率の見直しの可能性

もう一つの重要な論点は、配当還元率です。

現行の配当還元方式は、一定の還元率を用いて配当額を資本価値に換算しますが、この還元率は制度創設当時の金利環境を前提としている面があります。

長期的な金利低下や資本コストの変化を踏まえれば、還元率の見直しは避けられない論点です。

仮に還元率が引き下げられれば、同じ配当額でも株価は上昇することになります。
この点は、少数株主の評価に直接的な影響を与えるため、実務上のインパクトは小さくありません。


制度の方向性は「例外の縮小」

今回の見直し全体に共通する方向性は、「例外の縮小」です。

配当還元方式は、原則的評価方式に対する例外的な位置付けにあります。評価の公平性や中立性を重視するのであれば、例外の適用は限定的であるべきという考え方が強まります。

したがって、配当還元方式は制度として残るとしても、その適用はより限定的になり、本来の趣旨に合致する場合にのみ認められる方向に進む可能性が高いと考えられます。


完全廃止の可能性はなぜ低いのか

一方で、配当還元方式が完全に廃止される可能性は高くありません。

その理由は、少数株主の評価を原則的評価方式で行うと、実態を反映しない過大評価となるおそれがあるためです。

経営に関与できない株式を、支配権を前提とした評価で評価することは、評価の合理性を損なう可能性があります。

したがって、少数株主の立場を反映する評価方法自体は必要であり、その役割を担う方法として、配当還元方式またはそれに類似する手法は残ると考えられます。


実務への影響と対応の方向性

配当還元方式の見直しは、実務に大きな影響を与えます。

まず、株主構成の設計に対する考え方が変わります。
形式的な分散による評価引下げは難しくなり、株主構成は経営や承継の観点から再設計する必要があります。

また、配当政策も見直しが必要です。
配当還元方式の評価に依存するのではなく、企業価値全体の中で配当の位置付けを考える必要があります。

さらに、事業承継のタイミングにも影響します。
改正前後で評価方法や評価水準が変わる可能性があるため、時間軸を踏まえた検討が不可欠です。


結論

配当還元方式は、制度としては残る可能性が高いものの、その適用範囲と評価ロジックは大きく見直される方向にあります。

特に、株主区分の操作による適用や、形式的な条件による利用は制限され、本来の趣旨に沿った場合に限定される可能性が高いと考えられます。

今回の見直しは、配当還元方式の是非を問うものではなく、その使われ方を問い直すものです。

今後の実務では、制度の例外に依存するのではなく、企業価値と株主の実態に基づいた評価を前提とした戦略が求められます。評価制度の変化は、事業承継の設計そのものを見直す契機となります。


参考

税のしるべ 2026年4月24日「取引相場のない株式の評価見直しで有識者会議、改正通達の適用は早ければ令和10年から」

税のしるべ 令和8年4月27日号1面 取引相場のない株式の評価見直しに関する記事

国税庁 財産評価基本通達

会計検査院 取引相場のない株式の評価に関する指摘資料

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