非上場株式の評価見直しが進む中で、従来の株価対策は大きな転換点を迎えています。
これまで有効とされてきた手法の多くが、評価の恣意性排除という流れの中で見直される可能性が高まっています。
重要なのは、「何ができなくなるか」ではなく、「これから何が本質的な対策になるのか」を再定義することです。本稿では、今後有効となる株価対策の方向性を実務的に整理します。
従来型の株価対策はなぜ通用しにくくなるのか
従来の株価対策は、評価方式の差や制度の構造を前提としたものでした。
例えば、配当を抑制して類似業種比準価額を引き下げる方法や、会社規模を調整して有利な評価方式を選択する方法、株主構成を変えて配当還元方式を適用する方法などです。
しかし今回の見直しでは、こうした評価差や操作可能性そのものが問題視されています。
そのため、「評価方式を選ぶ」ことを前提とした対策は、今後効果が限定される可能性があります。
つまり、制度のすき間を活用するアプローチから、制度の前提そのものに対応するアプローチへと転換が求められています。
今後の基本戦略は「企業価値コントロール」
今後の株価対策の中核は、企業価値そのもののコントロールです。
評価が実態に近づく方向で見直される以上、株価は企業の収益力や資産構成をより反映するようになります。したがって、単なる形式的な操作ではなく、実質的な経営判断が評価額に直結します。
具体的には、次の3つの視点が重要になります。
・利益水準のコントロール
・純資産のコントロール
・資本構成の最適化
これらは従来から存在する論点ですが、今後は「補助的な手段」ではなく「主戦略」として位置付ける必要があります。
利益水準のコントロールの考え方
利益は企業価値の中核となる要素です。
従来も利益水準の調整は株価対策として用いられてきましたが、今後はより慎重な対応が求められます。過度な利益圧縮は、評価の中立性という観点から問題視される可能性があります。
重要なのは、単年度の利益ではなく、中長期的な収益構造です。
一時的な利益操作ではなく、持続的な利益水準の設計が求められます。
また、利益水準は金融機関の評価やM&A価格にも影響するため、税務だけでなく経営全体との整合性が不可欠です。
純資産コントロールの再設計
純資産価額方式が引き続き重要な位置を占める以上、純資産の管理は依然として重要です。
ただし、単純な資産圧縮は今後慎重に検討する必要があります。例えば、不動産の評価や含み益の扱いなどについて、形式的な調整が否認されるリスクも考慮しなければなりません。
一方で、事業に不要な資産の整理や、事業用資産への再投資といった実質的な資産構成の見直しは、有効な手段として位置付けられます。
純資産対策は、「減らす」ことではなく「適正化する」ことへと発想を転換する必要があります。
資本政策の重要性の高まり
株価対策において、資本政策の重要性はこれまで以上に高まります。
具体的には、以下のような論点が挙げられます。
・持株会社化の活用
・種類株式の設計
・自己株式の取得
・グループ再編
これらは、単に評価額を下げるための手段ではなく、経営権の維持や承継の円滑化と一体で設計すべきものです。
特に、株主構成と議決権のコントロールは、評価見直し後も重要なテーマであり続けます。
事業承継との一体設計が不可欠
今後の株価対策は、単独で完結するものではありません。
株価対策、事業承継、資本政策、税務対応を一体で設計することが不可欠です。
例えば、承継時期を前倒しするかどうか、贈与と相続をどう組み合わせるか、納税猶予制度を利用するかどうかといった判断は、株価の動向と密接に関係します。
また、第三者承継(M&A)を選択する場合には、税務評価と取引価格の関係も重要な検討要素となります。
実務で求められる新しいアプローチ
今後の実務では、次のようなアプローチが求められます。
第一に、評価の前提を理解することです。
単に計算結果を見るのではなく、どの要素が評価に影響しているのかを把握する必要があります。
第二に、複数シナリオでの検討です。
評価方法の見直しによって結果が変わる可能性があるため、将来の制度変更を前提としたシミュレーションが重要になります。
第三に、経営との統合です。
株価対策を税務の問題として切り離すのではなく、経営戦略の一部として位置付けることが求められます。
結論
非上場株式の評価見直しにより、従来型の株価対策は転換を迫られています。
今後有効となるのは、評価方式の選択に依存した対策ではなく、企業価値そのものに働きかける戦略です。
利益、純資産、資本政策を軸に、事業承継と一体で設計することが不可欠になります。
評価制度が変わるということは、単にルールが変わるだけではありません。企業に対して、より実態に即した経営と説明可能な価値形成が求められているということです。
これからの株価対策は、制度対応ではなく、経営そのものに近づいていきます。
参考
税のしるべ 2026年4月24日「取引相場のない株式の評価見直しで有識者会議、改正通達の適用は早ければ令和10年から」
税のしるべ 令和8年4月27日号1面 取引相場のない株式の評価見直しに関する記事
国税庁 財産評価基本通達
会計検査院 取引相場のない株式の評価に関する指摘資料