インフレ環境のもとで、企業が従業員の生活を支援する手段として「食事補助」が注目されています。一方で、同じコストをかけるのであれば現金給与として支給した方がよいのではないか、という疑問も生じます。
本稿では、食事補助と現金給与を「実効税率」という観点から比較し、どちらが有利になるのかを整理します。
比較の前提となる考え方
食事補助と現金給与の最大の違いは、課税の有無です。
- 食事補助:一定の要件を満たせば非課税
- 現金給与:所得税・住民税・社会保険料の対象
この違いは、最終的な「手取り額」に大きな差を生みます。したがって、単純な支給額ではなく、「企業コストに対して従業員の手取りがどれだけ残るか」で比較することが重要です。
現金給与の実効税率
現金給与として支給した場合、以下の負担が発生します。
- 所得税
- 住民税
- 社会保険料(健康保険・厚生年金等)
これらを合計すると、一般的な会社員では概ね以下の水準になります。
- 社会保険料:おおむね15%前後(本人負担)
- 所得税・住民税:所得水準により10〜20%程度
合計すると、実効税率は概ね25〜35%程度になるケースが多いです。
つまり、企業が1万円を給与として支給しても、従業員の手取りは6,500円〜7,500円程度にとどまる可能性があります。
食事補助の実効税率
これに対して、食事補助は一定の条件を満たせば非課税となります。
- 所得税:なし
- 住民税:なし
- 社会保険料:対象外
そのため、企業が1万円相当の食事補助を提供した場合、従業員はほぼ同額の価値を享受できます。
実効税率という観点では、ほぼ0%に近い水準となります。
同一コストでの比較
ここで、「企業が1万円のコストをかける場合」で比較すると差はさらに明確になります。
現金給与の場合
企業負担には社会保険料の会社負担分も含まれるため、実際には以下の構造になります。
- 企業コスト:1万円
- 社会保険料(会社負担):約1,500円
- 残りが給与原資:約8,500円
- 従業員負担(税・社会保険):約2,500円
→ 手取り:約6,000円前後
食事補助の場合
- 企業コスト:1万円
- 税・社会保険負担:なし
→ 実質享受額:約1万円
同じコストで比較すると、手取りベースでは1.5倍以上の差が生じることになります。
実務上の意思決定ポイント
ただし、食事補助が常に優れているわけではありません。以下の観点での判断が重要です。
現金給与のメリット
- 使途が自由
- 賞与や退職金の算定基礎になる
- 住宅ローン審査などで有利
食事補助のメリット
- 税負担がない
- インフレ下での生活支援効果が高い
- 福利厚生としての満足度が高い
つまり、短期的な手取り最大化であれば食事補助が有利ですが、長期的な所得形成や信用力の観点では現金給与にも意味があります。
「組み合わせ設計」という発想
重要なのは、どちらか一方を選ぶことではなく、両者をどう組み合わせるかです。
例えば以下のような設計が考えられます。
- 基本給は一定水準を確保
- 生活支援部分は福利厚生で補完
- 税効率のよい範囲で非課税制度を最大活用
このように設計することで、
- 従業員の満足度
- 企業のコスト効率
- 税務上の最適性
を同時に実現することが可能になります。
結論
食事補助と現金給与を実効税率で比較すると、非課税である食事補助は圧倒的に有利です。特にインフレ環境下では、その効果はより大きくなります。
一方で、現金給与には長期的な所得形成や信用力の面での役割があります。したがって、最適解は単純な二者択一ではなく、税制を踏まえた全体設計にあります。
今後は、食事補助に限らず、住宅・通勤・教育といった各分野で、同様の「実効税率」を意識した制度設計が求められる時代になるといえるでしょう。
参考
日本経済新聞(2026年4月20日 朝刊)
非課税2倍で「社食特需」42年ぶり税制改正 インフレ下「第3の賃上げ」