税務の世界において、専門家の役割は単なる制度の解説や手続きの代行にとどまりません。ときには国家と対峙し、納税者の立場から主張を戦わせる存在が求められます。
その象徴的な存在が、タックスロイヤーと呼ばれる税務専門の弁護士です。本稿では、その先駆者の歩みを通じて、専門性とは何か、そして新しい領域を切り開くとはどういうことかを整理します。
タックスロイヤーという専門領域
鳥飼重和が歩んだ道は、日本における税務専門弁護士の歴史そのものともいえます。
タックスロイヤーとは、税務当局による課税処分に対して、納税者の代理人として争う弁護士を指します。税務調査の段階から関与し、訴訟に至れば国を相手に法廷で主張を展開します。
現在では一定の認知がある分野ですが、かつては税務を専門とする弁護士は極めて少なく、存在自体が例外的でした。税務訴訟という領域は、制度理解だけでなく、実務・証拠・論理構成を統合する高度な専門性を必要とするためです。
遅咲きのキャリアと試行錯誤
弁護士としてのスタートが40代という経歴は、一般的には遅い部類に入ります。しかし、その時間は決して無駄ではなく、多様な経験として蓄積されていました。
実際に税務訴訟の分野に進んだ当初は、結果が伴わず敗訴が続きます。税務訴訟は行政側に蓄積された知見や証拠が厚く、簡単に勝てる領域ではありません。
それでも、他者からの助言を受け、過去の裁判資料を徹底的に研究し、試行錯誤を繰り返すことで状況は変わっていきます。この過程は、専門性が単なる知識ではなく、検証と修正の積み重ねで形成されることを示しています。
税務訴訟における「相手の理解」
税務訴訟の特徴の一つは、純粋な法解釈だけで勝敗が決まるわけではない点にあります。
裁判官は法の適用者であると同時に、人間でもあります。そのため、論理の正しさに加えて、どのように主張を伝え、納得してもらうかという視点が重要になります。
ここには、単なる法律論を超えた「伝える力」や「構成力」が求められます。税務は数字と制度の世界ですが、その本質は人間の判断に依存しているという側面を持っています。
国税当局との関係性の捉え方
税務訴訟というと、国税当局と対立する構図が強調されがちです。しかし、必ずしも単純な対立関係ではありません。
それぞれが異なる立場で最善を尽くしているという前提に立つことで、議論の質は大きく変わります。敵対ではなく、役割の違いとして捉える視点は、専門家としての冷静さを保つうえで重要です。
この視点は、税務実務全般にも通じます。税務調査や申告の場面においても、対立ではなく「解釈の調整」として捉えることで、より合理的な対応が可能になります。
新しい領域を切り開くということ
専門家としての価値は、既存の枠組みの中での競争だけで決まるものではありません。
誰もやっていない領域に踏み込み、新しい価値を創造することもまた重要な要素です。タックスロイヤーという分野自体が、その象徴といえます。
さらに、税務訴訟の第一線から退いた後も、新たな分野に挑戦を続けている点は示唆的です。専門性は固定されたものではなく、常に更新され続けるものです。
結論
タックスロイヤーの歩みは、専門家としての成長の本質を示しています。
それは、早く成功することではなく、試行錯誤を重ねながら独自の領域を築くことにあります。また、制度や知識だけでなく、人間の理解や伝え方を含めた総合的な能力が求められる点も重要です。
専門性とは既存の枠組みに適応する力ではなく、新しい枠組みを生み出す力でもあります。その視点を持つことが、これからの時代における専門家の在り方を考える上で重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年4月13日夕刊 人間発見 税務弁護の道開いて(1)