企業不正は、特定の企業や個人に限った例外的な問題ではありません。循環取引のような不正は、どの企業にも起こり得る構造的なリスクとして存在しています。
これまでのシリーズでは、不正の手口、見抜き方、止まらない理由、責任の所在といった観点から整理してきました。本稿では総括として、不正リスクとどのように向き合うべきかを実務的な視点で整理します。
不正は完全には防げないという前提
最初に確認すべきは、不正を完全に防ぐことはできないという現実です。
どれほど制度を整備しても、
・人は合理的でない判断をする
・組織は目標達成を優先する
・情報は必ずしも上層部に伝わらない
といった要因により、不正の可能性は常に残ります。
したがって、重要なのは「防ぐこと」だけでなく、「早期に発見し、被害を最小化すること」です。
リスクは「構造」で捉える
不正リスクは、個人の倫理観ではなく、構造として捉える必要があります。
具体的には、
・過度な数値目標
・情報の集中と非対称性
・資金制約の欠如
・牽制機能の弱さ
といった要素が重なると、不正が発生しやすくなります。
実務では、「誰が悪いか」ではなく、「どの構造が不正を生みやすいか」を分析する視点が重要です。
早期発見のための視点
不正を完全に防げない以上、早期発見の仕組みが不可欠です。
そのためには、以下の視点が有効です。
・売上と資金の流れの乖離に注目する
・通常と異なる取引パターンを検知する
・現場の違和感を軽視しない
・単一の情報源に依存しない
特に重要なのは、「違和感」を組織として共有できる仕組みです。
違和感が個人の中にとどまる限り、不正は発見されません。
責任の所在を曖昧にしない
不正が拡大する組織では、責任が曖昧になっていることが多く見られます。
・現場は指示に従うだけ
・管理職は詳細を把握していない
・取締役は報告を受けていない
このような状態では、誰も不正を止める主体になりません。
したがって、
・誰が判断するのか
・誰が監督するのか
・誰が最終責任を負うのか
を明確にすることが必要です。
ガバナンスは「仕組み」と「運用」の両輪
ガバナンスは制度を整備するだけでは機能しません。
重要なのは、その運用です。
・形式的な会議ではなく実質的な議論が行われているか
・異論が許容される環境があるか
・リスクに関する情報が適切に共有されているか
これらが満たされて初めて、ガバナンスは機能します。
制度と運用のいずれかが欠ければ、不正を防ぐことはできません。
実務における意思決定フレーム
不正リスクと向き合うためには、日常の意思決定の中に判断基準を組み込むことが有効です。
具体的には、以下の問いを常に意識することが重要です。
・この取引に実態はあるか
・資金の流れは説明できるか
・第三者に説明可能か
・長期的に持続可能か
これらの問いに明確に答えられない場合、その取引には何らかのリスクが内在していると考えるべきです。
結論
不正リスクと向き合うために必要なのは、特別な仕組みではありません。
・不正は起こり得るという前提
・構造としてリスクを捉える視点
・早期発見を重視する姿勢
・責任の明確化
・実効性のあるガバナンス
これらを日常的に実践することが重要です。
不正は「防ぐもの」であると同時に、「管理するもの」でもあります。
その現実を直視し、組織としてどのように対応するかが問われています。
参考
日本経済新聞 2026年4月7日朝刊
KDDI会計不正 報告書を読む(上)グループ融資で雪だるま式 循環取引、広告不振を隠す