循環取引は古典的な不正手法でありながら、現在でも繰り返し発生しています。その理由は、外形上は通常の商取引と区別がつきにくく、形式的なチェックでは発見が困難であるためです。
KDDIグループの事案でも、複数企業を介在させた複雑な取引構造により、長期間にわたり不正が見過ごされました。
本稿では、循環取引を見抜くための視点を、監査と税務の両面から整理します。
循環取引の基本構造の理解
循環取引とは、複数の企業間で資金と取引を循環させることで、実体のない売上や利益を計上する手法です。
典型的には以下の構造を取ります。
・A社がB社に販売
・B社がC社に販売
・C社が最終的にA社または関係会社に戻す
このように、資金が一巡することで、実際には価値の移転がないにもかかわらず、売上だけが計上されます。
重要なのは、個々の取引だけを見ても不正と断定できない点にあります。全体の流れを俯瞰する視点が不可欠です。
監査の視点 不自然な取引兆候の把握
監査においては、循環取引の兆候を「違和感」として捉えることが出発点となります。
主なチェックポイントは以下のとおりです。
・売上とキャッシュフローが連動していない
・短期間で同額・同内容の取引が繰り返されている
・利益率が不自然に安定している
・取引先の実在性や事業実態が不明確である
・契約内容が画一的で個別性に乏しい
特に重要なのは、資金の流れです。
売上が計上されているにもかかわらず、入金が遅延していたり、別ルートで資金が戻っていたりする場合、循環構造の存在を疑う必要があります。
税務の視点 経済合理性の検証
税務の観点では、「その取引に経済的合理性があるか」が最も重要な判断基準となります。
具体的には以下の点を検証します。
・実際に商品やサービスの提供が行われているか
・取引価格が市場水準と整合しているか
・取引に伴うリスクとリターンの関係が合理的か
・取引の目的が事業上の必要性に基づいているか
循環取引の場合、これらのいずれか、あるいは複数が欠けていることが一般的です。
形式的に契約書や請求書が整備されていても、実態が伴わなければ否認の対象となります。
グループ内取引と資金の流れの分析
近年の不正では、グループ内取引や関連当事者取引が関与するケースが増えています。
そのため、以下の視点が重要となります。
・グループ会社間で資金が循環していないか
・融資や前払金が取引拡大の原資になっていないか
・同一人物または少数の担当者が取引全体を管理していないか
特に、資金調達手段が豊富な企業グループでは、資金制約が働きにくく、不正が拡大しやすい傾向があります。
資金の出入りを取引単位ではなく、グループ全体で把握する視点が不可欠です。
実務チェックリスト
実務においては、以下の観点で定期的な検証を行うことが有効です。
・売上と入金の対応関係の確認
・主要取引先の実在性と事業内容の確認
・同一条件の取引の反復有無の分析
・取引先との直接面談の実施
・資金の流れを時系列で追跡
これらは単独では決定打にならない場合もありますが、複数の兆候が重なった場合には、循環取引の可能性を強く疑う必要があります。
結論
循環取引は、個々の取引をいくら精査しても見抜けない場合があります。
重要なのは、
・取引の全体構造を俯瞰する視点
・資金の流れを重視する分析
・経済合理性に基づく判断
の三点です。
監査と税務の視点は異なるようでいて、最終的には「実態があるか」という一点に収斂します。
形式ではなく実質を見る姿勢こそが、循環取引を見抜くための最も有効な手段といえます。
参考
日本経済新聞 2026年4月7日朝刊
KDDI会計不正 報告書を読む(上)グループ融資で雪だるま式 循環取引、広告不振を隠す