関税とWTOルールの関係──「力の関税」と多国間秩序の揺らぎ

FP

米連邦最高裁がIEEPAを根拠とする相互関税を違憲と判断しました。
しかし、米国は1974年通商法122条に基づく一律10%関税を発動し、さらに301条や232条の活用も視野に入れています。

ここで改めて問われるのが、「これらの関税措置はWTOルールとどう整合するのか」という問題です。

関税は本来、各国が自由に決められる政策手段ではありません。
WTO(世界貿易機関)の枠組みの下では、加盟国は一定のルールに従って関税を設定・運用する義務を負っています。

本稿では、米国の関税政策とWTOルールの関係を整理します。


1.WTOの基本原則──最恵国待遇と譲許税率

WTO体制の根幹は、次の二つの原則です。

第一に、最恵国待遇(MFN)原則です。
ある国に有利な関税条件を与えた場合、原則としてすべての加盟国にも同じ条件を適用しなければなりません。

第二に、譲許税率の拘束です。
各国は、品目ごとに「これ以上は上げない」という上限関税率(バウンド税率)を約束しています。

これらは、恣意的な関税引き上げを防ぐための仕組みです。

したがって、突然の大幅な追加関税は、WTOルールとの整合性が常に問題になります。


2.IEEPA型相互関税とWTOの衝突

トランプ政権がIEEPAを根拠に発動した相互関税は、特定国を対象に高率の追加関税を課すものでした。

これは、

  • 最恵国待遇違反の疑い
  • 譲許税率の上限超過の疑い

を生じさせます。

実際、多くの国がWTO提訴を検討または実施してきました。

もっとも、WTO紛争解決制度(DSB)は近年、上級委員会の機能停止により事実上麻痺状態にあります。
そのため、ルール違反が疑われても、最終的な強制力を持つ判断が出にくいという構造的問題があります。


3.232条(国家安全保障)とGATT21条

232条に基づく関税は「国家安全保障」を理由とします。

WTOのGATT第21条には、安全保障例外が規定されています。
加盟国は、自国の安全保障上必要と認める措置をとることができるとされています。

かつては「自己判断(self-judging)」と理解され、広く裁量が認められると考えられていました。
しかし近年のパネル報告では、安全保障例外にも一定の客観的審査が及ぶと解釈されています。

それでも、安全保障を理由にした関税は、WTO上の争いが極めて政治的色彩を帯びやすく、解決が難航しがちです。


4.301条(制裁関税)と一方的措置の問題

301条は、不公正貿易慣行に対する制裁関税を可能にします。

しかし、WTO体制では、加盟国は原則としてWTOの紛争解決手続を経て対抗措置をとるべきとされています。

一方的な報復関税は、多国間秩序を損なうとされるからです。

米国は、WTOが十分機能していないことを理由に、自国法による制裁を正当化してきました。
この姿勢は、「ルールによる支配」から「力による交渉」への転換と評価されることもあります。


5.122条の一律関税とWTOとの関係

122条による一律10%関税は、特定国ではなく全世界に適用される点で最恵国待遇違反の問題は生じにくい構造です。

しかし、譲許税率を超える場合には依然として問題になります。
また、「国際収支の困難」を理由とする措置は、GATT第12条や第18条との関係で議論されます。

いずれにしても、WTOの枠内で正当化するには厳格な要件が必要になります。


6.WTOの機能低下が意味するもの

現在、WTOの上級委員会は機能停止状態にあります。
そのため、パネル判断が出ても最終確定に至らないケースが増えています。

この状況は、ルール違反の有無よりも「実際に制裁が機能するかどうか」が不透明になることを意味します。

結果として、

  • 大国は自国法に基づく措置を拡大しやすい
  • 中堅国・小国は対抗手段が限られる

という非対称性が生まれています。


結論

今回の違憲判決は、米国内における権力分立の再確認でした。
しかし、国際的な観点から見れば、問題はWTOルールとの整合性に移ります。

IEEPA型関税は司法によって制限されましたが、122条、301条、232条といった他の枠組みは依然として残ります。
これらがWTOルールと緊張関係を持つことに変わりはありません。

WTO体制が十分に機能しない中で、関税政策は「法の問題」であると同時に「力の問題」にもなっています。

企業にとっては、WTOルール違反か否かという抽象的議論よりも、

  • 各国がどこまで実際に報復するか
  • 多国間交渉が再活性化するか
  • 地域協定(USMCAや日米合意)が優先されるか

といった現実的な力学を見極めることが重要になります。

関税は、単なる税率の問題ではなく、国際秩序の安定性を映す鏡でもあります。


参考

日本経済新聞
・米代替関税、24日から10% 最高裁が相互関税に違憲判決(2026年2月22日朝刊)
・EU、米関税の影響探る(2026年2月22日朝刊)
・止まらぬ「力の貿易支配」(2026年2月22日朝刊)
・トランプ関税 米貿易赤字の縮小めざす(2026年2月22日朝刊)

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