違憲判決後の関税リスクマップ──IEEPA・122条・301条・232条の違いを整理する

FP

米連邦最高裁は、トランプ政権が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に発動した相互関税などを違憲と判断しました。
しかし、関税政策そのものが消えたわけではありません。政権は直ちに1974年通商法122条を用いた一律10%関税を発動し、さらに301条や232条の活用も示唆しています。

企業実務にとって重要なのは、「関税があるかないか」ではなく、「どの法律に基づく関税なのか」です。
根拠法によって、期間、調査手続き、対象範囲、訴訟リスク、予見可能性が大きく異なります。

本稿では、違憲判決後の関税リスクを整理するため、IEEPA、122条、301条、232条の違いを文章で体系化します。


1.IEEPA──今回、違憲とされた緊急権限型

IEEPAは、国家の緊急事態において経済取引を規制できる法律です。
トランプ政権は貿易赤字やフェンタニル流入を「国家の緊急事態」と位置づけ、議会の承認を経ずに関税を発動しました。

最高裁は、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと判断しました。
つまり、緊急事態を理由に広範な関税を即時発動することは、憲法上の議会権限を侵害するとされたわけです。

企業にとっての教訓は、緊急事態型の迅速関税は司法審査リスクが高いという点です。
即効性はあるが、法的安定性に欠ける、という特徴が浮き彫りになりました。


2.1974年通商法122条──期間限定の一律措置

今回、代替措置として発動されたのが122条です。
これは、深刻な国際収支赤字への対抗措置として、150日間限定で最大15%の関税を課せる制度です。

IEEPAと異なる点は、関税そのものを明示的に想定していること、そして期間制限があることです。
議会の承認があれば延長も可能ですが、基本的には「つなぎ」の性格を持ちます。

企業にとっては、短期的なコスト増に備えつつ、終了時期を見込んだ輸出入計画を立てやすい側面があります。
一方で、期間終了後にゼロになる保証はなく、別の法律に切り替わる可能性もあります。


3.通商法301条──不公正貿易への制裁型

301条は、不公正な貿易慣行に対する対抗措置としての関税を可能にします。
対象国や対象品目を特定し、調査を経て発動される仕組みです。

特徴は、手続きが必要であることです。
調査、利害関係者の意見聴取、報告書作成などを経るため、即時発動は困難です。

企業にとっては、対象品目が限定されるため影響範囲を特定しやすい一方、対象に入れば中長期的な負担になります。
IEEPA型より法的安定性は高いが、特定産業への集中リスクが大きいと言えます。


4.通商拡大法232条──国家安全保障型

232条は、国家安全保障上の脅威を理由に関税を課す制度です。
鉄鋼、アルミ、自動車などの分野別関税はこれに基づきます。

発動には最長270日間の調査期間が設けられています。
そのため、予告期間が比較的明確であり、企業は準備期間を確保できます。

ただし、一度発動されると恒常化しやすく、撤廃のハードルは高い傾向があります。
安全保障という広い概念が根拠になるため、政策的柔軟性も高い制度です。


5.4つの制度をリスク軸で整理する

文章で整理すると、次のようなリスクマップが描けます。

  • 即効性が高いが司法リスクが高い:IEEPA(今回違憲)
  • 即効性はあるが期間限定:122条
  • 発動まで時間がかかるが特定国・品目に集中:301条
  • 調査期間が明確で恒常化しやすい:232条

企業実務では、どの法律が使われるかによって、

  • 原価見通しの期間
  • サプライチェーン再編の必要性
  • 移転価格や価格転嫁の設計
  • 会計上の開示リスク

が変わります。


結論

最高裁はIEEPAを否定しましたが、関税政策そのものを終わらせたわけではありません。
関税は今後、122条、301条、232条といった法的枠組みの中で再構成される可能性が高いと考えられます。

企業にとって重要なのは、関税率そのものよりも、「根拠法の違いがもたらす時間軸と安定性」です。
即時型か、調査型か、期間限定か、恒常型かによって、経営判断の重みは変わります。

違憲判決は、関税リスクを消したのではなく、「形を変える入口」を示したにすぎません。
法的枠組みの違いを理解することが、今後の実務対応の出発点になります。


参考

日本経済新聞
・米代替関税、24日から10% 最高裁が相互関税に違憲判決(2026年2月22日朝刊)
・米最高裁、野放図な権限拡大に警鐘(2026年2月22日朝刊)
・トランプ関税 米貿易赤字の縮小めざす(2026年2月22日朝刊)

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