設備投資促進税制を読み解く(第4回)

政策
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

先日、日経新聞の朝刊に「減価償却費を一括計上設備投資促す」という記事が載っていましたので、今回もこの記事について、考えていきたいと思います。

1. 世界で広がる「国内投資を囲い込む動き」

今、各国では、自国企業の投資を国内に呼び戻すために、税制優遇を競い合う流れが加速しています。
背景にあるのは、米中摩擦やサプライチェーン分断への懸念。
設備投資を国内に確保することが、経済安全保障の観点からも重要になっているのです。

2.米国の取り組み:即時償却の恒久化

米国では 2024年7月に「即時償却を恒久化」する法律が成立しました。
これにより、企業は機械や建物だけでなく、ソフトウエア投資についても初年度に全額を経費化できます。

・狙い:企業が迷わず国内投資を進められる環境づくり
・効果:資金繰りの改善とともに、国内製造業の雇用維持・強化につながる

3. ドイツの取り組み:法人税減税+加速償却

ドイツも 2024年7月に法人減税法を成立させました。
内容は「法人税率引き下げ」と「加速償却(通常より短期間で減価償却できる制度)」の組み合わせです。

・狙い:産業の国際競争力強化とデジタル・環境分野での投資促進
・効果:特に製造業と環境関連産業に資金を呼び込みやすくする

4. 日本の現状と課題

一方、日本は2026年度の税制改正要望でようやく「即時償却」と「税額控除」を打ち出しました。
理念としては米独と同じ方向を向いていますが、次の課題が残っています。

①制度が時限措置(5年間)にとどまる
→米国の「恒久化」と比べると企業の安心感に欠ける。

②政治的調整の難航
→与党が参院選で敗北し、野党の協力が不可欠。
 制度の実現性に不透明感。

③中小企業への浸透不足
→ 制度設計が複雑だと「一部の大企業のための仕組み」と見なされるリスク。

5.比較表で見る:米国・ドイツ・日本の投資税制

国名制度内容特徴課題
米国即時償却の恒久化投資初年度に全額経費化が可能財政負担の拡大
ドイツ法人税率引き下げ+加速償却減税と償却優遇の組み合わせ財源確保とEU調整
日本即時償却+税額控除(5年の時限措置)ハード+ソフトを対象、企業規模を問わない恒久化できるか、中小企業まで浸透するか



6.生活者・投資家にとっての視点

この比較から浮かび上がるのは、「投資環境の魅力度で各国が競争している」という点です。

・米独に比べて日本が遅れれば、企業は海外投資を選び、雇用や技術が流出するリスクがある。
・一方で日本が制度を強化すれば、国内産業の競争力強化につながり、賃上げや雇用安定に波及。

つまりこれは、私たちの雇用・給与・投資リターンに直結する問題でもあります。
米国は恒久化、ドイツは法人減税と加速償却、日本は5年間の時限措置。
「どの国で投資した方が有利か」という企業の視点で見ると、日本の制度が本当に競争力を持てるのか
が問われています。
今後の議論次第で、2040年に「設備投資 200兆円」という政府目標が現実味を帯びるのか、それとも絵に描いた餅に終わるのかが決まっていくでしょう。

ということで、今回は以上とさせていただきます。
次回(第5回・最終回)は、「設備投資促進税制の行方と私たちの暮らし」をテーマに、雇用・賃上げ・地域経済への波及効果や、財源問題を踏まえた未来シナリオを考えてみます。

タイトルとURLをコピーしました