新リース会計の導入が近づく中、多くの企業や投資家が注目しているのが「利益の見え方」の変化です。
特に最近は、
- EBITDAが改善する
- 営業利益が増える
- 利益率が上がる
といった説明が目立つようになっています。
一方で、
「本当に企業の稼ぐ力が上がるのか」
「単なる会計上の見え方の変化ではないのか」
という疑問もあります。
実際、新リース会計では、企業のキャッシュフローが変わっていないにもかかわらず、利益指標だけが改善して見えるケースがあります。
これは「会計不正」ではありません。
しかし、財務分析上は非常に重要な論点です。
本稿では、新リース会計によってなぜ利益が増えて見えるのか、どの指標が変わるのか、投資家は何を読み替える必要があるのかを整理します。
新リース会計で何が変わるのか
新リース会計では、多くの賃借契約について、
- 使用権資産
- リース負債
を貸借対照表へ計上する方向になります。
従来、日本基準では、オペレーティング・リースについては、
- 毎月の賃料を費用処理する
方法が中心でした。
つまり、
「単なる家賃」
として処理されていました。
しかし新基準では、これを、
- 使用権資産の減価償却費
- リース負債に対する支払利息
へ分解する考え方になります。
ここが、利益の見え方を大きく変えるポイントです。
EBITDAが改善する理由
最も象徴的なのが、EBITDAです。
EBITDAとは、
- 税引前利益
- 支払利息
- 減価償却費
などを調整した利益指標であり、企業のキャッシュ創出力を見る際によく使われます。
従来、リース料は営業費用に含まれていました。
しかし新リース会計では、
- 減価償却費
- 支払利息
へ振り替わります。
すると、EBITDAの計算上は費用が減るため、数値が改善します。
つまり、
「実際には何も変わっていないのに、EBITDAだけ上がる」
という現象が起きるのです。
営業利益も改善しやすい
営業利益も改善しやすくなります。
なぜなら、リース料の一部が営業外費用である支払利息へ移るからです。
従来は、
「賃料=営業費用」
でした。
しかし新基準では、
- 減価償却費
- 支払利息
に分かれます。
このうち支払利息は営業外費用になるため、営業利益が押し上げられやすくなります。
特に、
- 小売業
- 外食業
- 物流業
- 不動産賃借型ビジネス
などは影響が大きいと考えられます。
しかしキャッシュは増えていない
ここが最も重要な点です。
利益が改善して見えても、実際のキャッシュ支出は変わっていません。
企業はこれまで通り賃料を払い続けます。
つまり、
- 現金が増えたわけではない
- 事業収益力が上がったわけではない
のです。
あくまで、
「会計上の表示区分が変わった」
側面が大きいといえます。
このため、投資家や金融機関は数値を読み替える必要があります。
「利益率改善」の見せ方が増える可能性
今後は、
- EBITDAマージン改善
- 営業利益率改善
- ROA改善
などを強調する企業が増える可能性があります。
もちろん制度上は正しい処理です。
しかし、その背景にあるのが、
「実態改善」
なのか
「表示変更」
なのか
は慎重に見る必要があります。
特に企業比較では注意が必要です。
新基準適用前後で単純比較すると、利益成長を過大評価する可能性があります。
投資家は何を見るべきか
今後、投資家やアナリストには「読み替え能力」が求められます。
特に重要なのは、
- キャッシュフロー
- フリーキャッシュフロー
- 実質有利子負債
- 総支払額
などです。
EBITDAだけを見ていると、
「利益が急改善した」
ように見える場合があります。
しかし実際には、単なる会計処理変更にすぎない可能性があります。
つまり、
「数字が良く見えること」
と
「企業価値が本当に上がること」
は別問題なのです。
セール・アンド・リースバックにも影響
この問題は、セール・アンド・リースバックとも深く関係します。
従来は、
- 不動産を売却
- 賃借へ切り替え
- オフバランス化
という流れで財務改善を演出しやすい面がありました。
しかし新リース会計では、賃借してもリース負債が計上されます。
つまり、
「負債を消したつもりでも、別の形で戻ってくる」
可能性があります。
このため、従来型の財務戦略は見直しを迫られる可能性があります。
「軽い会社」が本当に強いのか
ここで、より本質的な問題が見えてきます。
それは、
「資産を持たない方が本当に良いのか」
という問題です。
デフレ時代の日本では、
- 軽資産
- 固定費削減
- オフバランス化
が重視されてきました。
しかし現在、日本はインフレ経済へ移行しつつあります。
インフレ時代には、
- 不動産
- 物流施設
- 工場
- 実物資産
の価値が上がる可能性があります。
そのため、
「持たない経営」
が常に合理的とは限らなくなっています。
財務分析は“数字の裏側”を見る時代へ
新リース会計によって、企業財務はより複雑になります。
同じ企業でも、
- 適用前
- 適用後
で利益構造が大きく変わって見える可能性があります。
そのため今後は、
- EBITDA
- 営業利益
- ROE
だけを見る分析では不十分になります。
重要なのは、
- キャッシュは本当に増えているのか
- 実態として収益力は改善しているのか
- 単なる会計変更ではないのか
を見抜くことです。
つまり、今後の財務分析は、
「数字を見る」
だけではなく、
「数字の裏側を読む」
時代へ入っていくと考えられます。
結論
新リース会計では、
- EBITDA
- 営業利益
- 利益率
などが改善して見えるケースがあります。
しかし、それは必ずしも企業の実力向上を意味しません。
多くの場合、
- 賃料
- 減価償却費
- 支払利息
への表示変更による影響が大きいためです。
つまり、
「利益が増えたように見える」
一方で、
「キャッシュは増えていない」
ケースが起こり得ます。
今後は企業側にも投資家側にも、
- 会計変更
- 実態収益力
- キャッシュ創出力
を区別して考える視点が求められます。
新リース会計は、単なる制度改正ではありません。
それは、
「企業の本当の収益力をどう見るか」
という財務分析そのものを問い直す変化になっていく可能性があります。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年5月8日
「企業施設、含み益20兆円 事業用不動産、インフレ波及 物言う株主が売却圧力」
日本経済新聞 朝刊 2026年5月8日
「事業用不動産 価格上昇で取得時より高く」