政策保有株はなぜなくならないのか(制度と実務の乖離)

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政策保有株式の縮減は、日本のコーポレートガバナンス改革における重要テーマの一つです。コーポレートガバナンス・コードの導入以降、多くの企業が保有株式の見直しを掲げ、実際に縮減も進んできました。

しかし現実には、依然として多くの企業が政策保有株式を持ち続けています。形式的には削減が進んでいる一方で、本質的な問題は解消されていないという指摘も少なくありません。

本稿では、政策保有株式がなくならない理由を、制度と実務の乖離という視点から整理します。


政策保有株式とは何か

政策保有株式とは、純投資目的ではなく、取引関係の維持・強化などを目的として保有される株式を指します。

典型的な目的としては以下が挙げられます。

・取引関係の安定化
・金融機関との関係維持
・業界内の協調関係の確保

このような株式は、日本企業特有の「持ち合い構造」を形成してきました。


制度上は「縮減」が求められている

現在の制度では、政策保有株式の見直しは明確に求められています。

特に重要なのがコーポレートガバナンス・コードです。

企業は、

・保有の合理性を検証すること
・議決権行使の方針を開示すること
・縮減に向けた方針を示すこと

などが求められています。

さらに、機関投資家からも、

・資本効率の観点
・利益相反の問題

を理由に強い圧力がかかっています。

制度だけを見ると、政策保有株式は「減っていくはずのもの」といえます。


それでもなくならない理由① 取引関係の現実

最大の理由は、実務上の取引関係です。

企業にとって、

・主要取引先との関係維持
・安定的な受注の確保
・サプライチェーンの維持

は極めて重要です。

この中で、株式の持ち合いは「関係性の証」として機能してきました。

仮に株式を売却した場合、

・取引が縮小するのではないか
・関係が悪化するのではないか

という懸念が生じます。

制度上は合理性が問われても、現場では関係維持が優先される構造があります。


それでもなくならない理由② ガバナンスの空洞化

政策保有株式の問題は、単に資産効率の問題ではありません。

より本質的なのは、

議決権の歪みです。

持ち合い株主は、

・経営陣に対して反対しにくい
・株主としての監視機能が弱い

という特徴を持ちます。

その結果、

・経営の規律が弱まる
・改革が進まない

という構造が生まれます。

しかし企業側から見ると、これは「安定株主の確保」として機能します。

ここに制度と実務の大きな乖離があります。


それでもなくならない理由③ 会計・税務の影響

政策保有株式には、会計・税務上の要因も影響しています。

例えば、

・含み益がある場合、売却すると課税が発生
・売却タイミングによって利益変動が生じる

といった問題があります。

また、

・株価変動による評価損益
・自己資本への影響

なども経営判断に影響を与えます。

結果として、

「売却した方が合理的でも、実行しにくい」

という状況が生まれます。


それでもなくならない理由④ 「形式対応」による実質温存

近年は政策保有株式の「削減」が進んでいるとされていますが、その中身を見ると注意が必要です。

企業は、

・一部を売却する
・形式的に縮減方針を開示する

一方で、

・重要な取引先の株式は維持する
・実質的な持ち合いは残す

という対応も見られます。

つまり、

形式的には改善、実質は維持

という状態です。


政策保有株式は本当に悪なのか

ここで一度立ち止まる必要があります。

政策保有株式は一概に否定されるべきものなのでしょうか。

確かに、

・資本効率を下げる
・ガバナンスを弱める

という問題があります。

一方で、

・長期的な取引関係の維持
・経営の安定性確保

という側面も存在します。

重要なのは、

無条件に保有することではなく、合理性を説明できるかどうか

です。


今後の方向性はどこにあるのか

今後の政策保有株式のあり方は、次の方向に進むと考えられます。

・単純な削減から「質の見直し」へ
・資本コストを意識した保有判断
・説明責任の強化

つまり、

「持つか・持たないか」ではなく、
「なぜ持つのか」を問われる時代です。


結論

政策保有株式がなくならない理由は、単純ではありません。

制度上は縮減が求められているにもかかわらず、

・取引関係
・ガバナンス構造
・会計・税務
・形式対応

といった複数の要因が絡み合い、実務では維持され続けています。

この問題の本質は、

制度の問題ではなく、企業行動の問題です。

真に変化が起きるためには、

・資本効率を意識した経営
・株主との対話の深化
・取引関係の再定義

が不可欠となります。

政策保有株式は、日本企業の構造的課題を映す鏡であり、その変化の速度こそが、日本企業の変革の進展度を示す指標になるといえます。


参考

・日本経済新聞 コーポレートガバナンス関連記事(各年)
・金融庁 コーポレートガバナンス・コード(改訂版)

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