循環取引はなぜ止まらないのか 組織心理とガバナンスの構造分析

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循環取引は、企業不正の中でも繰り返し発生する典型的な手法です。制度や監査が高度化しているにもかかわらず、なぜ同様の不正が後を絶たないのでしょうか。

KDDIグループの事案においても、不正は長期間継続し、規模も拡大しました。本稿では、その背景にある組織心理とガバナンスの問題を整理します。


不正は「例外」ではなく「連続」である

循環取引の多くは、最初から大規模な不正として始まるわけではありません。

当初は、

・一時的な売上の補填
・目標未達の回避
・事業継続のための数字調整

といった小さな逸脱から始まります。

しかし、一度でも不正な処理が行われると、その後は過去の不正を隠すために新たな不正が必要になります。これにより、不正は単発ではなく連続的な構造へと変化します。

循環取引は、この「連続性」と極めて相性の良い手法です。


組織心理 違和感が封じられる構造

不正が止まらない最大の要因の一つは、現場における心理的な圧力です。

具体的には以下のような状況が見られます。

・上司の指示に対する服従圧力
・告発者として特定されることへの恐怖
・組織内で孤立することへの不安
・不正を問題視しない雰囲気の醸成

これらが重なると、違和感を持ちながらも行動を起こせない状態が生まれます。

特に、関与者が限定されている場合、情報の非対称性が強まり、内部からの是正が極めて困難になります。


数値目標が不正を正当化する

売上や利益といった数値目標は、本来は経営管理のための指標です。しかし、これが過度に強調されると、不正の動機に転化します。

・目標未達は許されないというプレッシャー
・短期的な成果評価の重視
・撤退や失敗を認めない組織文化

こうした環境では、「数字を合わせること」が目的化し、その手段が問われなくなります。

結果として、不正が「必要な対応」として内部で正当化される構造が形成されます。


ガバナンスの形骸化

形式的なガバナンスが存在していても、それが機能していなければ意味はありません。

本件のような事案では、以下の問題が見られます。

・取締役会が事業リスクを十分に検証していない
・融資や投資の意思決定が形式的に行われている
・現場の実態が上層部に伝わらない

特に重要なのは、「説明が合理的に見える場合に疑いが弱くなる」という点です。

事業拡大や資金需要といった説明は一見すると正当であり、深い検証が行われないまま意思決定が進むことがあります。


資金があるほど不正は止まらない

循環取引が長期化・拡大するかどうかは、資金の制約に大きく依存します。

通常、不正は資金繰りの限界によって発覚します。しかし、グループ融資や信用力の高い企業では、その制約が緩和されます。

・借入によって資金不足が表面化しない
・先払いなどで取引を維持できる
・資金の流れが複雑化する

この結果、不正は「維持可能な状態」となり、停止の契機を失います。


内部通報が機能しない理由

内部通報制度は、不正防止の重要な仕組みとされていますが、実際には十分に機能しないケースも少なくありません。

主な理由は以下のとおりです。

・通報者の匿名性に対する不信
・報復人事への懸念
・通報しても改善されないという諦め
・そもそも不正と認識されない状況

制度が存在するだけでは不十分であり、実際に機能する環境が整っているかが重要となります。


結論

循環取引が止まらない理由は、個人の問題ではなく、組織の構造にあります。

・小さな逸脱が連鎖する構造
・違和感を封じる組織心理
・数値目標の過度な重視
・形骸化したガバナンス
・資金制約の欠如

これらが組み合わさることで、不正は長期化し、拡大します。

不正を防ぐためには、制度の整備だけでなく、「組織として何を許容するのか」という根本的な価値判断を明確にすることが不可欠です。


参考

日本経済新聞 2026年4月7日朝刊
KDDI会計不正 報告書を読む(上)グループ融資で雪だるま式 循環取引、広告不振を隠す

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