日本では医師不足が問題になっているとよく言われます。
しかし、実際には「医師が足りない」のではなく、「医師が地域によって偏っている」ことが大きな課題です。
都市部には多くの医師が集まる一方、地方や離島では医師不足が深刻化し、地域住民が必要な医療を受けられないケースも少なくありません。
こうした状況を改善するため、令和8年度税制改正では、医師偏在対策を支援するための不動産取得税などの税制措置が盛り込まれました。
今回は、税制が地域医療にどのような役割を果たしているのかを考えてみます。
医師偏在とは何か
医師偏在とは、医師の人数が地域によって大きく異なる状況をいいます。
例えば、
都市部では多くの医療機関があり、専門医も充実しています。
一方で地方では、
- 診療所が少ない
- 高齢医師しかいない
- 後継者が見つからない
といった課題を抱える地域もあります。
つまり、日本全体で医師数が増えても、必要な地域に医師がいなければ地域医療は維持できません。
なぜ都市部に医師が集まるのか
医師が都市部へ集中する理由はいくつかあります。
まず、医療設備が充実していることです。
高度医療を学べる環境があり、多くの症例を経験できます。
さらに、
- 子どもの教育環境
- 配偶者の就職
- 交通の利便性
- 生活環境
なども都市部を選ぶ理由になります。
一方、地方では医師一人が担う役割が大きく、長時間労働になりやすいことも課題となっています。
こうした事情が、医師偏在をさらに拡大させています。
税制優遇が導入される理由
今回の税制改正では、医師偏在対策として一定の税制支援が講じられています。
例えば、
地域医療を維持するために必要な施設整備などについて、不動産取得税などの負担を軽減する措置が設けられています。
これは、
「税金を安くすること」
そのものが目的ではありません。
税負担を軽減することで、
- 地域への投資を促す
- 医療機関の負担を減らす
- 地域医療を継続しやすくする
ことが本来の目的です。
税制は地域医療政策を支える一つの手段として位置付けられています。
税制だけでは解決できない課題
もちろん、税制優遇だけで医師偏在が解消されるわけではありません。
医師が地方で働き続けるためには、
- 働きやすい職場環境
- 十分な医療スタッフ
- 子育て支援
- 教育環境
- 地域住民との連携
など、多くの条件が必要です。
税制はその一部を支える仕組みにすぎません。
医師が安心して働ける環境づくりが同時に進まなければ、根本的な解決にはつながらないでしょう。
地域医療は地域全体で支える時代へ
人口減少が進む中では、一つの病院だけで地域医療を支えることは難しくなっています。
近年は、
- 病院同士の連携
- 診療所との役割分担
- 在宅医療の充実
- オンライン診療の活用
など、地域全体で医療を支える仕組みづくりが進められています。
税制優遇も、こうした地域医療ネットワークを支える政策の一つとして考えることができます。
人口減少時代の医療政策
今後、日本の人口は減少していきます。
一方で、高齢者の割合はさらに高まることが予想されています。
つまり、
医療需要は増える一方で、医療を支える人材は減少していくという難しい時代を迎えます。
そのため、
- 医師の適正配置
- DXによる業務効率化
- AIの活用
- 地域包括ケアシステム
など、多方面からの取り組みが必要になります。
税制はその一つの支援策として、今後も重要な役割を果たしていくでしょう。
結論
医師偏在は、単に医師の人数不足ではなく、地域ごとの医師配置の偏りから生じる課題です。
令和8年度税制改正では、不動産取得税などの税制優遇を通じて地域医療を支援する仕組みが盛り込まれました。
しかし、税制だけで医師偏在を解決することはできません。
働きやすい環境づくりや地域全体で医療を支える体制整備など、総合的な取り組みが不可欠です。
これからの医療政策では、「病院を増やす」こと以上に、「地域全体で医療を支える仕組みをどう築くか」が、ますます重要になっていくのではないでしょうか。
参考
令和8年度税制改正の実務ポイント 第3 資産課税・住宅税制(2026年4月6日講義資料)