前回は、外形標準課税が利益ではなく企業活動そのものに着目した課税制度であることを説明しました。
その中心となるのが「付加価値額」という考え方です。
しかし、多くの経営者にとって付加価値額という言葉はなじみがありません。
決算書にも直接出てこないため、税理士に言われるまま申告しているケースも少なくないでしょう。
ところが、この付加価値額という考え方を理解すると、自社がどのように価値を生み出し、それを誰に分配しているのかが見えてきます。
実は外形標準課税を理解することは、経営そのものを理解することにつながるのです。
付加価値額とは何か
付加価値額とは、企業が事業活動によって新たに生み出した価値を意味します。
例えば、ある会社が原材料を100万円で仕入れ、それを加工して300万円で販売したとします。
この場合、単純に考えると200万円の価値を新たに生み出したことになります。
これが付加価値という考え方の基本です。
企業は単にモノを右から左へ流しているだけではありません。
人が働き
設備を使い
資金を活用し
ノウハウを投入することで
新たな価値を創造しています。
その創造された価値が付加価値なのです。
生み出した価値はどこへ行くのか
企業が生み出した価値は最終的に誰かに分配されます。
従業員には給与として支払われます。
銀行には利息として支払われます。
地主やビルオーナーには家賃として支払われます。
そして残った部分が企業の利益になります。
外形標準課税では、この分配された価値の総額を把握しようとしています。
つまり、
給与
利息
賃借料
利益
を合計したものが付加価値額になるのです。
利益だけを見ていると企業活動の一部しか見えません。
付加価値額を見ることで、企業が社会にどれだけの価値を提供したのかを把握できるのです。
なぜ給与が課税対象になるのか
経営者から最も多い疑問が、
「従業員に給料を払っているのに、なぜそれが課税対象になるのか」
というものです。
しかし、税務上は給与そのものに課税しているわけではありません。
企業が従業員に給与を支払えるということは、その給与に見合う価値を生み出しているということです。
例えば年間1億円の給与を支払う会社は、その1億円を支払えるだけの事業活動を行っています。
外形標準課税は、その活動規模を評価しているのです。
給与に課税しているのではなく、給与を支払えるだけの事業活動に着目しているということです。
借入金が多い会社はどうなるのか
付加価値額には純支払利子も含まれます。
銀行から借入を行えば利息を支払います。
利息を支払えるということは、その資金を使って事業活動を行っていることを意味します。
そのため、支払利子も企業活動の規模を表す指標の一つとして扱われています。
ただし、受取利息があれば差し引く仕組みになっています。
その結果として算定されるのが純支払利子です。
ここには、
「借入を利用して事業を拡大している企業ほど活動量が大きい」
という考え方が反映されています。
家賃も企業活動の証拠になる
純支払賃借料も付加価値額を構成する要素です。
本社ビル
工場
店舗
倉庫
などを借りている企業は、そのための家賃を支払います。
家賃を支払っているということは、その施設を利用して事業活動を行っていることを意味します。
つまり、賃借料も企業活動の規模を表す数字なのです。
大規模な店舗網を持つ企業や、多数の拠点を持つ企業ほど賃借料が大きくなる傾向があります。
外形標準課税では、その活動量も評価対象にしています。
利益がゼロでも価値は生まれている
ここが最も重要なポイントです。
仮に利益がゼロだったとしても、
従業員へ給与を支払い
銀行へ利息を支払い
大家へ家賃を支払っている
のであれば、企業は価値を生み出しています。
利益だけが価値ではありません。
従業員の生活を支え
金融機関へ収益をもたらし
不動産オーナーへ収入を提供している
これも立派な価値創造です。
だからこそ、外形標準課税では利益以外の部分も評価するのです。
付加価値額は経営分析にも役立つ
付加価値額は税務だけの数字ではありません。
経営分析の指標としても非常に有効です。
例えば、
一人当たり付加価値額
付加価値率
労働分配率
などの分析は、企業の生産性を把握するうえで重要です。
利益だけを追いかけていると、人材育成や将来投資を削減してしまうことがあります。
しかし付加価値の視点で見ると、
どれだけ社会に価値を提供しているか
どれだけ従業員へ還元しているか
という経営の質が見えてきます。
税理士が理解すべき本当の意味
外形標準課税を計算すること自体は難しくありません。
しかし、その背後にある考え方を理解している税理士は意外に多くありません。
付加価値額とは単なる計算項目ではなく、
企業が生み出した価値そのもの
を表す数字です。
この視点を持つことで、税理士は単なる申告代行者ではなく、経営の理解者として経営者に助言できるようになります。
AIが計算を行う時代だからこそ、数字の意味を説明できる人材の価値は高まっていくでしょう。
結論
付加価値額とは、企業が事業活動によって生み出した価値の総額を表すものです。
外形標準課税では、
報酬給与額
純支払利子
純支払賃借料
単年度損益
を合計して付加価値額を算定します。
この考え方から見ると、利益がゼロでも給与や利息、家賃を支払いながら事業活動を行っている企業は、社会に価値を提供していることになります。
外形標準課税は税金の制度であると同時に、企業活動の本質を映し出す鏡でもあるのです。
参考
近畿税理士会
「税法実務講座(法人税)事業税の外形標準課税対象法人の申告の基礎② 外形標準課税対象法人の付加価値割の基礎」