企業において内部統制の重要性が否定されることはほとんどありません。むしろ、多くの企業がその必要性を理解し、制度として整備しています。
それにもかかわらず、現場では内部統制が「負担」「非効率」「現実を知らない仕組み」として受け止められる場面が少なくありません。
なぜ内部統制は嫌われるのか。本稿では、制度ではなく運用の視点から、その摩擦の正体を整理します。
業務を止める統制という現実
現場にとって最も強い不満は、内部統制が業務のスピードを低下させる点にあります。
承認フローの増加、証憑の保存、ダブルチェックなど、統制の多くは業務に「待ち時間」と「追加作業」を生みます。
例えば、
・迅速に意思決定したい案件が承認待ちで滞る
・形式的な確認作業に時間を取られる
・例外処理が認められず機会を逃す
といった状況は日常的に発生します。
現場の評価指標が売上や成果である場合、統制は直接的な価値を生まない「コスト」として認識されやすくなります。
責任の非対称性が生む不満
内部統制には、責任の非対称性という問題があります。
統制を守ることによるメリットは見えにくい一方で、守らなかった場合の責任は明確に個人に帰属します。
つまり、
・守っても評価されない
・破れば責任を問われる
という構造です。
この状態では、現場は「やらされている」という感覚を持ちやすくなります。
さらに、統制の設計者と運用者が分離している場合、「現場を知らないルール」として反発が強まります。
形式主義への違和感
内部統制が嫌われるもう一つの理由は、形式主義への違和感です。
本来の目的はリスクの抑制であるにもかかわらず、実務では「書類が揃っているか」「形式が正しいか」が重視される場面が増えます。
その結果、
・実態のないチェックが繰り返される
・意味のない証憑が蓄積される
・形式を満たすことが目的化する
といった現象が起こります。
現場から見れば、「実質的なリスクは放置されているのに、形式だけ厳しい」という矛盾が生じます。
リスク感覚のズレ
経営層や管理部門と現場の間には、リスク認識のズレも存在します。
管理側は最悪のケースを想定して統制を設計しますが、現場は日々の業務の中で現実的なリスク感覚を持っています。
その結果、
・過剰な統制と感じる
・実務に合わないルールが生まれる
・例外対応が増えて形骸化する
といった問題が発生します。
統制はリスクをゼロにするためのものではなく、合理的な範囲で管理するためのものです。このバランスが崩れると、統制は信頼を失います。
統制疲れという現象
近年、多くの企業で「統制疲れ」とも言える状態が見られます。
コンプライアンス強化、監査対応、各種チェックの増加により、現場の負担は年々増加しています。
その結果、
・チェックが形だけになる
・本来重要な統制まで軽視される
・抜け道を探す行動が生まれる
といった逆効果が生じます。
統制は増やせば強くなるわけではなく、過剰になると機能しなくなります。
内部統制を機能させるための運用の視点
内部統制を現場に定着させるためには、制度ではなく運用の見直しが不可欠です。
重要なポイントは以下の通りです。
第一に、統制の目的を明確にすることです。
なぜその統制が必要なのかが理解されなければ、形だけの運用になります。
第二に、リスクに応じたメリハリをつけることです。
すべてを同じ強度で管理するのではなく、重要度に応じて統制を設計する必要があります。
第三に、現場との対話です。
統制は一方的に押し付けるものではなく、実務とのすり合わせの中で磨かれるものです。
結論
内部統制が現場で嫌われる理由は、制度の問題ではなく運用の問題にあります。
業務の非効率、責任の非対称性、形式主義、リスク認識のズレ、統制疲れ。これらが重なり、統制は現場との摩擦を生みます。
しかし、内部統制の本来の目的は組織を守ることにあります。
重要なのは、統制を「負担」から「納得」に変えることです。
そのためには、制度の強化ではなく、運用の再設計が求められています。
参考
日本経済新聞 2026年4月2日朝刊
KDDI子会社不正会計に関する特集記事
(専門家コメント・関連論考)