不正は誰の責任か 現場・管理職・取締役の責任構造を分解する

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企業不正が発覚した際、必ず問われるのが「誰の責任か」という問題です。しかし実務上、この問いに単純な答えは存在しません。

KDDIグループの事案のように、不正が長期間かつ組織的に継続している場合、責任は特定の個人に限定されるものではなく、複数の階層にまたがって分散しています。

本稿では、現場・管理職・取締役という三つの階層に分けて、責任の所在を整理します。


現場の責任 実行主体としての役割

まず、不正の直接的な実行主体は現場です。

架空取引の入力、契約書の作成、請求書の発行といった具体的な行為は、現場担当者によって行われます。この意味で、形式的な責任は現場にあるといえます。

しかし、ここで重要なのは、現場がどのような環境に置かれていたかです。

・上司からの明確または暗黙の指示
・異議を唱えにくい組織風土
・不正を拒否した場合の不利益への懸念

これらが存在する場合、現場の行動は必ずしも自由な意思決定とはいえません。

したがって、現場の責任は「実行責任」として認識されるべきであり、それだけで全体の責任を説明することはできません。


管理職の責任 不正を止める立場

次に、管理職の責任です。

管理職は、現場の業務を監督し、異常を察知し、必要に応じて是正する立場にあります。そのため、不正の抑止において中心的な役割を担います。

具体的には以下の責任があります。

・業務内容の把握とモニタリング
・不自然な取引の兆候の検知
・部下からの相談に対する適切な対応
・不正の兆候があった場合のエスカレーション

にもかかわらず、不正が継続した場合、

・見て見ぬふりをした
・問題を過小評価した
・業績を優先して是正を先送りした

といった点が問われることになります。

管理職の責任は「監督責任」であり、不正の発見・是正を怠った点にあります。


取締役の責任 ガバナンスの最終責任

最後に、取締役の責任です。

取締役は、企業全体のリスク管理と内部統制の整備・運用に対して最終的な責任を負います。

本件のような事案では、以下の点が問題となります。

・事業リスクに対する理解と検証が十分であったか
・資金供給や投資判断が適切に行われていたか
・内部統制が実効的に機能していたか
・現場の情報を適切に把握できていたか

特に重要なのは、「知らなかった」では責任を免れないという点です。

取締役には、リスクを把握するための仕組みを構築し、それを機能させる義務があります。

したがって、取締役の責任は「統治責任」として位置付けられます。


責任の分断が不正を拡大させる

実務上問題となるのは、それぞれの階層が自らの責任を限定的に捉えてしまうことです。

・現場は「指示に従っただけ」と考える
・管理職は「知らなかった」と考える
・取締役は「報告がなかった」と考える

このように責任が分断されると、不正はどの段階でも止められなくなります。

結果として、不正は組織全体の問題であるにもかかわらず、特定の個人に責任が集中する構図が生まれます。


実務における責任の整理視点

責任を適切に整理するためには、以下の視点が重要です。

・誰が意思決定を行ったのか
・誰が不正を認識していたのか
・誰が是正可能な立場にあったのか
・どの段階で不正を止める機会があったのか

これらを時系列で整理することで、責任の所在をより正確に把握することができます。


結論

企業不正の責任は、一つの階層に帰属するものではありません。

・現場の実行責任
・管理職の監督責任
・取締役の統治責任

これらが重層的に存在し、そのいずれかが欠けたときに、不正は発生し、拡大します。

したがって、不正を防止するためには、各階層が自らの責任を正しく認識し、相互に補完し合う構造を構築することが不可欠です。


参考

日本経済新聞 2026年4月7日朝刊
KDDI会計不正 報告書を読む(上)グループ融資で雪だるま式 循環取引、広告不振を隠す

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