企業不正の多くは、発覚時にすでに長期間継続しています。単発で終わる不正はむしろ少なく、時間の経過とともに規模を拡大し、最終的に重大な問題として表面化します。
なぜ不正は長期化するのか。本稿では、個人の問題ではなく、組織構造の観点からそのメカニズムを整理します。
小さな逸脱が見逃される初期段階
不正の出発点は、多くの場合ごく小さな逸脱です。
例えば、
・売上の計上時期の調整
・軽微な数値の修正
・形式的なルールの逸脱
こうした行為は、業務上の裁量の範囲と見なされやすく、問題として認識されません。
この段階で重要なのは、「不正が成立したかどうか」ではなく、「逸脱が許容されたかどうか」です。
最初の逸脱が見逃されることで、組織内に「この程度なら問題にならない」という暗黙の了解が形成されます。
循環構造が不正を固定化する
不正が継続する最大の要因は、循環構造の形成です。
一度不正によって数字を作ると、その整合性を保つために次の不正が必要になります。
例えば、
・架空売上を計上すると回収のための取引が必要になる
・資金の流れを合わせるために追加の取引が発生する
・過去の数値を維持するために新たな操作が必要になる
このように、不正は単発では完結せず、連鎖的に拡大します。
特に循環取引のような構造では、不正がシステムの一部として組み込まれ、通常の業務と区別がつかなくなります。
成功体験が不正を正当化する
不正が長期化する過程で重要なのが、成功体験の蓄積です。
不正を行っても発覚せず、むしろ業績が改善したように見える場合、当事者の中で心理的な正当化が進みます。
その結果、
・「会社のためになる行為」という認識
・「いずれ修正すればよい」という合理化
・「自分だけが悪いわけではない」という分散意識
が形成されます。
この段階に入ると、不正は意図的な行為から「業務の一部」へと変質します。
組織の沈黙と同調圧力
不正が長期化するもう一つの要因は、組織の沈黙です。
不正の兆候に気づく人がいたとしても、それが問題として共有されない場合、不正は継続します。
その背景には、
・指摘することへの心理的抵抗
・上司や関係者への配慮
・組織内での孤立への不安
があります。
さらに、不正に関与する人が増えるほど、同調圧力が強まり、内部からの是正が困難になります。
監督機能の限界と盲点
経営層や監査機能が存在していても、不正が見抜けないケースは少なくありません。
その理由は、監督機能にも構造的な限界があるためです。
・情報は現場から上がってくるものに依存する
・異常値が合理的に説明されると疑いにくい
・専門性の不足により実態が理解できない
特にノンコア事業や新規事業では、この問題が顕著になります。
結果として、形式的には問題がないように見える状態が長期間維持されます。
発覚を遅らせる合理性
不正が長期化する背景には、「発覚させない合理性」も存在します。
不正が明らかになれば、
・業績への影響
・評価や報酬の低下
・組織へのダメージ
が避けられません。
そのため、関係者の中で「問題を表に出さない方が合理的」という判断が働きやすくなります。
この状態では、不正は自発的に止まることがなく、外部からの指摘や偶発的な契機によってのみ発覚します。
長期化を防ぐための視点
不正の長期化を防ぐためには、個人の倫理に依存するだけでは不十分です。
重要なのは、構造そのものを変えることです。
第一に、小さな逸脱を見逃さない仕組みです。
初期段階での是正が、長期化を防ぐ最も有効な手段となります。
第二に、循環構造を検知する視点です。
資金の流れや取引の実在性を継続的に検証する必要があります。
第三に、異常を指摘できる環境の整備です。
内部通報制度だけでなく、日常的に疑問を共有できる文化が求められます。
結論
不正が長期化する理由は、個人の問題ではなく、組織の構造にあります。
小さな逸脱、循環構造、成功体験、組織の沈黙、監督機能の限界。これらが連鎖することで、不正は拡大し続けます。
重要なのは、不正を防ぐことだけではなく、「長期化させないこと」です。
そのためには、制度の整備だけでなく、組織の行動と構造を見直す必要があります。
不正の芽を早期に摘み取れるかどうか。それが企業統治の実効性を左右します。
参考
日本経済新聞 2026年4月2日朝刊
KDDI子会社不正会計に関する特集記事
(専門家コメント・関連論考)