インターネットを利用した金融取引は、私たちの生活に欠かせないものになりました。証券口座で株式や投資信託を売買することも、スマートフォン一つでできる時代です。
一方で、その便利さを狙った犯罪も急速に高度化しています。
2025年には証券口座の乗っ取り被害が相次ぎ、大きな社会問題となりました。そして2026年には、主要証券会社が相次いで「パスキー認証」の義務化を進めています。
これは単なるログイン方法の変更ではありません。
「パスワードで守る時代」から、「本人しか認証できない時代」への大きな転換と言えるでしょう。
パスワードだけでは資産を守れない時代
これまで多くの人はIDとパスワードだけで証券口座にログインしていました。
しかし現在では、この方法だけでは十分とは言えません。
犯罪組織は巧妙なフィッシングメールや偽サイトを利用してIDやパスワードを盗み取ります。
利用者自身が入力してしまえば、犯人は本人になりすまして自由に口座へアクセスできてしまいます。
どれほど複雑なパスワードを設定していても、一度盗まれてしまえば意味がありません。
つまり問題は「強いパスワード」ではなく、「盗まれる仕組み」にあるのです。
パスキー認証とは何か
そこで導入が進んでいるのがパスキー認証です。
代表的なものは、
・指紋認証
・顔認証
・PINコード
・スマートフォンのパターン認証
などがあります。
これらはスマートフォンや端末の中で認証情報が管理されるため、パスワードのようにインターネット上へ送信されません。
そのため、フィッシング詐欺に非常に強い仕組みになっています。
利用者は普段スマートフォンを開く時と同じ感覚で本人確認ができるため、安全性だけでなく利便性も高まります。
なぜ証券会社が一斉に導入するのか
2025年に発生した証券口座乗っ取り事件では、多くの利用者が被害を受けました。
犯人は盗み出したIDとパスワードを利用し、本人になりすまして株式を売買していました。
被害者自身は何も操作していないにもかかわらず、不正取引が行われたのです。
この事件を受け、日本証券業協会や金融庁は、多要素認証の導入を強く求めました。
現在では主要証券会社のほぼすべてがパスキー認証へ移行し、安全対策を大幅に強化しています。
業界全体が同じ方向へ動いていることからも、その重要性が分かります。
生体認証はなぜ安全なのか
指紋や顔は、一人ひとり異なる情報です。
しかも、その情報自体が外部へ送信されるわけではありません。
端末内部で照合されるため、漏えいリスクが極めて低いとされています。
もちろん万能ではありません。
スマートフォンを紛失した場合などには適切な対処が必要です。
しかし、IDとパスワードだけに頼るよりもはるかに安全性が高いことは、多くの専門家が指摘しています。
高齢者こそ早めの設定が大切
一部では「設定が難しい」という声もあります。
確かに最初の設定には少し戸惑うかもしれません。
しかし、一度設定してしまえば、その後はパスワードを何度も入力する必要がなくなります。
実際に証券会社では店舗やコールセンターで設定支援を行うなど、高齢者向けのサポートも充実しています。
操作方法が分からない場合は、一人で悩まず相談することが大切です。
資産を守るためには、最初の一歩を踏み出すことが何より重要です。
セキュリティ対策は投資の一部
投資というと、多くの人は銘柄選びや運用成績ばかりに目が向きます。
しかし、どれほど資産が増えても、不正アクセスで失ってしまえば意味がありません。
これからの資産形成では、
「何に投資するか」
だけではなく、
「どう資産を守るか」
も同じくらい重要になります。
セキュリティはコストではなく、大切な資産を守るための投資なのです。
結論
証券会社がパスキー認証を義務化する動きは、単なるシステム変更ではありません。
デジタル社会における「資産防衛」の考え方そのものが変わり始めています。
今後は銀行、保険会社、行政サービスなどでも同様の認証方式が広がっていくでしょう。
私たち一人ひとりも、「便利だから後回し」ではなく、「安全だから今すぐ設定する」という意識を持つことが大切です。
資産形成と同じように、資産を守る知識もまた、人生100年時代に欠かせない金融リテラシーの一つなのです。
参考
日本経済新聞 2026年7月5日 朝刊
証券15社、ネット取引で「パスキー」必須 生体認証など、不正対策
日本経済新聞 2026年7月5日 朝刊
生体認証 顔や指紋、漏洩リスク小さく きょうのことば