働き方改革やテレワークの普及によって、働く場所や時間を自分で決められる人が増えてきました。政府も副業・兼業の促進や裁量労働制の見直しなど、柔軟な働き方を後押ししています。
しかし、日本では自由な働き方が広がっているにもかかわらず、多くの人が戸惑いを感じています。
出社義務がなくなると仕事の進め方が分からなくなる人がいます。定年退職後に自由な時間を持て余す人もいます。副業を認められても何をしてよいか分からないという声も少なくありません。
なぜ日本人は自由な働き方が苦手なのでしょうか。今回はその背景について考えてみます。
日本社会は「管理」によって発展してきた
戦後の日本経済は組織力によって成長してきました。
企業は新卒一括採用を行い、社員を長期間育成しました。終身雇用や年功序列の仕組みのもとで、多くの人が同じ会社に長く勤めることが前提となっていました。
その環境では、
・会社が仕事を与える
・上司が指示を出す
・組織が評価する
・会社がキャリアを決める
という仕組みが機能していました。
個人が自らキャリアを設計しなくても、ある程度の人生設計が可能だったのです。
この仕組みは高度経済成長期には非常に有効でした。
しかし、その成功体験が現在も強く残っています。
自由には責任が伴う
自由な働き方とは、自分で選択できる働き方です。
一見すると理想的に見えますが、その裏側には責任があります。
誰からも指示されない環境では、自ら目標を設定しなければなりません。
評価基準が曖昧な環境では、自ら成果を示さなければなりません。
副業を始める場合も、自分で顧客を探し、収入を管理し、学び続ける必要があります。
つまり自由とは、管理から解放されることではなく、自分で自分を管理することでもあります。
日本人の多くは学校教育から社会人生活まで、管理されることには慣れていますが、自分で全てを決める訓練を受ける機会はそれほど多くありません。
そのため自由に直面すると不安を感じやすいのです。
学校教育にも理由がある
日本の学校教育は協調性を重視してきました。
決められた時間に登校し、同じ内容を学び、集団行動を行います。
もちろん社会生活に必要な基礎を学ぶうえで重要な仕組みです。
しかし一方で、
「自分で課題を見つける」
「自分で時間を管理する」
「自分で責任を負う」
という経験は限られています。
社会に出てからも同様です。
会社の指示に従って成果を出すことは得意でも、自ら仕事を創り出す経験を持つ人は多くありません。
その結果、自由な働き方への適応に時間がかかることがあります。
AI時代は自律型人材が求められる
これからの時代はさらに変化が進みます。
AIが定型業務を担うようになると、単純作業や指示待ち業務の価値は低下していきます。
一方で価値が高まるのは、
・課題を発見する力
・人と協力する力
・新しいことを学ぶ力
・自ら行動する力
です。
これらはいずれも自律性と深く関係しています。
AIは指示されたことを高速で実行できますが、「何をするべきか」を決めるのは人間です。
つまりAI時代になるほど、自分で考え、自分で決める能力が重要になります。
人生100年時代は「自分で決める人生」になる
人生100年時代には、一つの会社で定年まで働くモデルだけでは対応できなくなります。
転職、副業、学び直し、起業、地域活動など、多様な選択肢が広がります。
その一方で、誰かが人生設計をしてくれる時代ではなくなります。
どのように働くのか。
いつ引退するのか。
どのように収入を確保するのか。
どのような学びを続けるのか。
こうした問いに対して、自分自身で答えを出さなければなりません。
自由な働き方とは、単に会社に縛られない働き方ではありません。
人生そのものを自分で設計する働き方でもあるのです。
自由を楽しむために必要なこと
自由な働き方が苦手なのは決して悪いことではありません。
長年にわたり組織社会の中で培われた価値観の結果だからです。
しかし時代の変化に対応するためには、自律する力を少しずつ身につける必要があります。
その第一歩は、自分で決める経験を増やすことです。
小さな副業でもよいでしょう。
新しい資格の勉強でもよいでしょう。
地域活動やボランティアでも構いません。
自分で考え、自分で行動し、その結果に責任を持つ経験が、自律性を育てます。
自由を使いこなす力は、突然身につくものではなく、日々の小さな選択の積み重ねによって育まれるものなのです。
結論
日本人が自由な働き方を苦手と感じる背景には、長年の組織中心社会や学校教育の影響があります。
これまでは組織が人生設計を支えてくれました。しかしAI時代と人生100年時代を迎え、その前提は大きく変わりつつあります。
これから求められるのは、自由そのものではなく、自律する力です。
自由な働き方ができる人とは、特別な才能を持つ人ではありません。自分で考え、自分で決め、自分で責任を負う習慣を持つ人です。
人生100年時代において、本当に重要なのは自由を与えられることではなく、自由を活かせる人になることなのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年6月7日 朝刊
「個人の自律と健康保つ裁量労働の議論を」
厚生労働省
「働き方改革関連資料」
内閣府
「人生100年時代構想会議関連資料」