AIが経理や税務の領域に入り込むことで、
監査の概念そのものが大きく変わろうとしています。
かつて内部監査は「年に一度」「決算後に行う」ものでした。
しかしAIがリアルタイムで帳簿を読み取り、
異常値や不正の兆候を自動検知できるようになった今、
監査は“点検”から“常時観測”へと進化しています。
本稿では、AIが実現する「継続的モニタリング」と
「自己検証する会計(Self-Auditing Accounting)」の姿を描きます。
1. 従来の内部監査が抱えていた3つの限界
企業や税理士事務所が行う従来の内部監査には、
時間・範囲・人材の3つの制約がありました。
| 限界 | 内容 | 具体的影響 | 
|---|---|---|
| ① 時間の限界 | 年次または四半期単位で実施 | ミスや不正の発見が遅れる | 
| ② 範囲の限界 | サンプリング検証が中心 | 全件チェックは不可能 | 
| ③ 人材の限界 | 担当者依存の判断 | 属人的で再現性が低い | 
この構造では、AIや自動仕訳による膨大な取引量を
すべて人手で検証するのは不可能です。
そこで登場するのが、AIによる継続的モニタリング(Continuous Monitoring)です。
2. AIがもたらす「継続的モニタリング」の仕組み
AIモニタリングとは、取引データをリアルタイムで監視し、
異常や不整合を即座に検知する仕組みです。
【AI内部監査システムの基本構成】
- データ収集層:仕訳・証憑・経費申請・振込情報を自動取得
 - 分析層:AIがルール学習と異常スコアリングを実施
 - 警告層:リスクスコアが閾値を超えた取引を自動通知
 - 検証層:人間の監査担当者がレビュー・承認
 - 学習層:修正結果をAIに再学習させ精度を向上
 
これにより、AIは「監査の助手」から「監査の継続実施者」へ進化します。
まさに、「自己検証する会計」が現実になりつつあるのです。
3. 「自己検証する会計」の構造と利点
AIが日常的に帳簿を点検する環境では、
会計データ自体が「自己監査の機能」を持つようになります。
【自己検証型会計の主な特徴】
- 全件監査:全ての仕訳・証憑が検査対象となる
 - 即時警告:異常仕訳をリアルタイムで検知・通知
 - 履歴透明性:修正履歴を自動記録し、追跡可能
 - 再学習機能:ミス修正結果を学習し、次回の精度を高める
 
この結果、内部監査のコストと時間が劇的に削減され、
同時に不正リスクの早期発見率が向上します。
AIは“過去を点検する道具”ではなく、未来を予防する統制機構となるのです。
4. 実務での導入プロセス
AIによる内部監査を機能させるには、
段階的な導入が現実的です。
| ステップ | 内容 | 実施例 | 
|---|---|---|
| ① データ標準化 | 帳簿・証憑・仕訳コードの統一 | 勘定科目体系・取引先コードを整理 | 
| ② ルール設定 | 異常検知ルール・閾値を設計 | 交際費上限・支払承認ルートなど | 
| ③ 試行導入 | 限定範囲でAI監視を稼働 | 月次経費や旅費精算のみ対象に開始 | 
| ④ 運用拡大 | 対象範囲を全帳簿に拡大 | 仕訳全件監視・AIレビュー自動化 | 
| ⑤ 組織統合 | 経理・監査・税務を一体運用 | 監査結果を申告プロセスに連携 | 
このプロセスを経ることで、AI監査は単なるツールではなく、
内部統制システムの中核へと進化していきます。
5. 継続監査が変える「税務調査対応」
AIによる継続監査が普及すれば、税務調査の在り方も変わります。
- AI監査ログが「適正会計処理の証拠」として機能
 - 誤りが発生しても修正の履歴と時期が記録される
 - 税務署の立会時に、AIの判定根拠を提示できる
 
つまり、AI内部監査を実施していれば、
「調査に耐える会計」が自動的に整う構造になります。
これは、税務の透明性と信頼性を飛躍的に高める改革です。
6. 専門職に求められる新しい監査スキル
AIが監査を支援する時代、税理士・会計士に求められるのは
「監査を行う力」から「監査を設計する力」へと変わります。
- AIに与えるルールとリスク閾値を設計できる
 - AI出力の意味と限界を理解し、レビューできる
 - 継続監査ログを税務当局・顧問先に説明できる
 - 不正検知モデルを倫理的に運用する意識を持つ
 
AI監査時代の専門家は、“判断者”というよりガバナンス設計者です。
技術を操るだけでなく、「透明な統制」を築く力が問われます。
結論
AIが帳簿を監視し、誤りを知らせ、修正を学ぶ――
かつて夢物語だった「自己検証する会計」は、いま現実の仕組みとなりました。
監査の目的は、誤りを探すことではなく、
誤りを生まない体制をつくることに変わりつつあります。
AIはその体制を支える“透明な同僚”です。
AIを恐れるのではなく、AIを内部統制の一部として受け入れる。
これこそが、AI税務時代の監査革命の核心です。
出典
・日本公認会計士協会「AI監査と継続的モニタリング実証報告」
・国税庁「AI活用による税務統制の高度化に関する研究」
・デジタル庁「リアルタイム会計インフラ構想2025」
・OECD「Continuous Audit and AI Governance Framework」
・日本税理士会連合会「AI時代の内部統制と税務リスクマネジメント」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  