AI税務の内部監査革命 ― 継続的モニタリングと“自己検証する会計”(AI税務時代の新常識 第13回)

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AIが経理や税務の領域に入り込むことで、
監査の概念そのものが大きく変わろうとしています。
かつて内部監査は「年に一度」「決算後に行う」ものでした。
しかしAIがリアルタイムで帳簿を読み取り、
異常値や不正の兆候を自動検知できるようになった今、
監査は“点検”から“常時観測”へと進化しています。

本稿では、AIが実現する「継続的モニタリング」と
「自己検証する会計(Self-Auditing Accounting)」の姿を描きます。


1. 従来の内部監査が抱えていた3つの限界

企業や税理士事務所が行う従来の内部監査には、
時間・範囲・人材の3つの制約がありました。

限界内容具体的影響
① 時間の限界年次または四半期単位で実施ミスや不正の発見が遅れる
② 範囲の限界サンプリング検証が中心全件チェックは不可能
③ 人材の限界担当者依存の判断属人的で再現性が低い

この構造では、AIや自動仕訳による膨大な取引量を
すべて人手で検証するのは不可能です。
そこで登場するのが、AIによる継続的モニタリング(Continuous Monitoring)です。


2. AIがもたらす「継続的モニタリング」の仕組み

AIモニタリングとは、取引データをリアルタイムで監視し、
異常や不整合を即座に検知する仕組みです。

【AI内部監査システムの基本構成】

  1. データ収集層:仕訳・証憑・経費申請・振込情報を自動取得
  2. 分析層:AIがルール学習と異常スコアリングを実施
  3. 警告層:リスクスコアが閾値を超えた取引を自動通知
  4. 検証層:人間の監査担当者がレビュー・承認
  5. 学習層:修正結果をAIに再学習させ精度を向上

これにより、AIは「監査の助手」から「監査の継続実施者」へ進化します。
まさに、「自己検証する会計」が現実になりつつあるのです。


3. 「自己検証する会計」の構造と利点

AIが日常的に帳簿を点検する環境では、
会計データ自体が「自己監査の機能」を持つようになります。

【自己検証型会計の主な特徴】

  • 全件監査:全ての仕訳・証憑が検査対象となる
  • 即時警告:異常仕訳をリアルタイムで検知・通知
  • 履歴透明性:修正履歴を自動記録し、追跡可能
  • 再学習機能:ミス修正結果を学習し、次回の精度を高める

この結果、内部監査のコストと時間が劇的に削減され、
同時に不正リスクの早期発見率が向上します。
AIは“過去を点検する道具”ではなく、未来を予防する統制機構となるのです。


4. 実務での導入プロセス

AIによる内部監査を機能させるには、
段階的な導入が現実的です。

ステップ内容実施例
① データ標準化帳簿・証憑・仕訳コードの統一勘定科目体系・取引先コードを整理
② ルール設定異常検知ルール・閾値を設計交際費上限・支払承認ルートなど
③ 試行導入限定範囲でAI監視を稼働月次経費や旅費精算のみ対象に開始
④ 運用拡大対象範囲を全帳簿に拡大仕訳全件監視・AIレビュー自動化
⑤ 組織統合経理・監査・税務を一体運用監査結果を申告プロセスに連携

このプロセスを経ることで、AI監査は単なるツールではなく、
内部統制システムの中核へと進化していきます。


5. 継続監査が変える「税務調査対応」

AIによる継続監査が普及すれば、税務調査の在り方も変わります。

  • AI監査ログが「適正会計処理の証拠」として機能
  • 誤りが発生しても修正の履歴と時期が記録される
  • 税務署の立会時に、AIの判定根拠を提示できる

つまり、AI内部監査を実施していれば、
「調査に耐える会計」が自動的に整う構造になります。
これは、税務の透明性と信頼性を飛躍的に高める改革です。


6. 専門職に求められる新しい監査スキル

AIが監査を支援する時代、税理士・会計士に求められるのは
「監査を行う力」から「監査を設計する力」へと変わります。

  • AIに与えるルールとリスク閾値を設計できる
  • AI出力の意味と限界を理解し、レビューできる
  • 継続監査ログを税務当局・顧問先に説明できる
  • 不正検知モデルを倫理的に運用する意識を持つ

AI監査時代の専門家は、“判断者”というよりガバナンス設計者です。
技術を操るだけでなく、「透明な統制」を築く力が問われます。


結論

AIが帳簿を監視し、誤りを知らせ、修正を学ぶ――
かつて夢物語だった「自己検証する会計」は、いま現実の仕組みとなりました。

監査の目的は、誤りを探すことではなく、
誤りを生まない体制をつくることに変わりつつあります。
AIはその体制を支える“透明な同僚”です。

AIを恐れるのではなく、AIを内部統制の一部として受け入れる。
これこそが、AI税務時代の監査革命の核心です。


出典
・日本公認会計士協会「AI監査と継続的モニタリング実証報告」
・国税庁「AI活用による税務統制の高度化に関する研究」
・デジタル庁「リアルタイム会計インフラ構想2025」
・OECD「Continuous Audit and AI Governance Framework」
・日本税理士会連合会「AI時代の内部統制と税務リスクマネジメント」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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