確定申告は今、AIとデジタル行政の融合によって新たな段階に入りました。
マイナポータル、会計ソフト、電子証明システムが連動し、
入力・添付・送信といった作業の多くが自動化されています。
2026年の電子申告完全移行を見据え、税務の現場は「人が入力する」から
「AIとシステムが連携して申告を完成させる」時代へ進化しようとしています。
本稿では、AI時代の確定申告を支える三つの柱 ― マイナポータル、会計ソフト、電子証明 ― の統合的な仕組みを整理します。
マイナポータル連携がもたらす自動化
マイナポータルは、個人の行政データを統合する国のプラットフォームであり、
近年、確定申告データとの自動連携機能が大幅に拡充されました。
【主な自動取得データ】
- 生命保険料控除証明書
- 医療費通知(健保組合・協会けんぽ)
- 寄附金控除(ふるさと納税)
- 公的年金等の源泉徴収票
- 住宅ローン控除証明書
- 国民年金保険料・社会保険料情報
これらのデータはe-Taxを経由して自動的に反映されるため、
従来のように書類を添付したり金額を転記する必要がなくなります。
マイナポータルと会計ソフトのAPI連携が進むことで、
控除情報や所得情報をAIが自動で照合し、漏れや重複を防ぐ仕組みが整いつつあります。
会計ソフトとAIの統合
クラウド会計ソフトは、単なる帳簿作成ツールから、
AIを活用した「自動申告プラットフォーム」へと変貌しています。
| ソフト | 連携機能 | AI自動化の特徴 |
|---|---|---|
| 弥生会計オンライン | e-Tax・マイナポータル・金融機関連携 | 領収書読取と勘定科目学習 |
| freee会計 | API連携+自動仕訳学習AI | 所得・控除を自動集計してe-Taxに送信 |
| Money Forwardクラウド | マイナポータル+電子帳簿保存法準拠 | 税額シミュレーションと節税アドバイス |
AIは、取引データ・控除データ・電子証明を組み合わせ、
「確定申告書を自動生成し、ミスの可能性を検知する」段階まで進化しています。
特に青色申告では、AIによる帳簿整合性チェックとe-Tax提出条件の自動判定が可能です。
電子証明の進化 ― セキュリティと利便性の両立
確定申告の完全電子化には、本人確認のための電子証明が不可欠です。
これまで課題とされてきた操作性・手続きの煩雑さも、
マイナンバーカードとスマートフォンの一体運用によって大きく改善されました。
【主な電子証明の仕組み】
- マイナンバーカード署名用電子証明書
e-Tax送信時に使用。カードリーダーまたはスマホ認証で署名。 - 利用者識別番号方式(ID・PW方式)
一時的に利用可能だが、今後はカード署名方式への一本化予定。 - スマホ署名連携(マイナポータルアプリ)
暗証番号をスマホで入力し、カード不要で電子署名。
これにより、スマートフォンだけで確定申告を完結させる「モバイルe-Tax」が現実化しました。
電子証明の信頼性と利便性を両立させる政策は、2026年以降の主流モデルになります。
AIが支える新しい申告体験
マイナポータル・会計ソフト・電子証明の連携によって、
申告プロセスは次のように変化します。
| 従来の流れ | AI統合後の流れ |
|---|---|
| 書類を集めて金額を入力 | マイナポータルから自動取得 |
| 領収書を手入力・分類 | AIが自動仕訳・勘定科目判定 |
| e-Tax送信時に手動署名 | スマホでワンタップ電子署名 |
| 修正・再申告は手作業 | AIが不整合を検知・再生成 |
AIは、申告データの中から「不自然な控除」「過少計上」「重複入力」などを自動検知し、
エラーを事前に修正できるため、税務署からの問い合わせリスクを減らすことができます。
今後の課題と展望
AIによる申告自動化が進む一方で、以下の課題も残されています。
- 所得区分・控除要件など法令判断をAIが誤認するリスク
- 各省庁・自治体とのデータ形式統一(標準化)の遅れ
- 個人情報の安全管理・アクセス権限設定の徹底
- システム障害時の申告受付体制
これらの課題を踏まえ、国税庁・デジタル庁は「AI税務インフラ構想」を進めています。
2027年以降には、AIが国民全員の申告データを一括分析し、
申告漏れや控除適用ミスを自動通知する仕組みの導入も検討されています。
結論
AI時代の確定申告は、もはや「入力作業」ではなく「確認作業」です。
マイナポータルがデータを収集し、AIが会計ソフトで分類・集計し、
電子証明で安全に送信する――。
この連携が確定申告を“誰でも・どこでも・正確に”行える社会基盤に変えつつあります。
今後は「AIを使いこなす納税者」と「AIを管理する専門家(税理士)」が協働し、
より透明で効率的な税務環境を築くことが求められます。
確定申告は、単なる義務から「デジタルリテラシーの象徴」へ。
AIがその入口を静かに変え始めています。
出典
・国税庁「e-Tax・マイナポータル連携の概要」
・デジタル庁「マイナポータルAPI仕様書」
・中小企業庁「AI会計導入ガイドライン」
・弥生・freee・Money Forward各社公式リリース
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
