AIによって経理の仕事がなくなる——そんな話を耳にしてから、もう10年がたちました。
けれど、実際に経理業務を担う私から見て、現実は違います。
AIは“仕事を奪う存在”ではなく、“仕事の進め方を変える存在”になりつつあるのです。
1.決算書をAIに読み込ませてみる
ある中堅企業の経理部。決算期末を終えたばかりのある日、部長からこんな指示が飛びます。
「来週の取締役会で使う業績説明資料を作ってくれ。説得力のあるものを。期限は明後日だ」
慌てる若手社員・成田くん。しかし先輩の倉田さんが一言。
「ChatGPTに自社と同業他社の決算書を読み込ませて、比較分析してもらおう」
実際にPDFをアップロードし、
「2社の決算書を比較して、売上成長率・利益率・財務健全性の観点から分析して」と指示。
わずか数分でAIは次のように要約しました。
- 自社の売上成長率:20%、A社:8%
- 営業利益率:自社12%、A社15%
- 両社の3期分の推移から、A社は利益重視、自社はシェア拡大重視の戦略と分析
人間が行えば半日はかかる作業が、AIなら数分。
AIが作成した分析をもとに、現場の実情や戦略意図を肉付けすれば、取締役会資料が一気に仕上がります。
2.実践手順:AI財務分析のやり方
方法はシンプルです。
- 自社の決算書PDFを準備する
- 比較対象(上場企業など)の決算短信PDFをIRサイトからダウンロード
- ChatGPTやGeminiに両方をアップロードし、以下のように入力
「アップロードした決算書について、売上高・営業利益・ROE・自己資本比率などを比較分析してください」
数分で財務分析レポートが生成されます。
機密保持のため、自社名は「A社」などに置き換えるのがポイントです。
さらに、「スライドにまとめて」と指示すれば、生成AIが自動でPowerPoint風の要約スライドを作成してくれます。
Googleの「Gemini」や「Genspark」など、スライド出力が得意なAIを組み合わせると、報告資料まで一気通貫で完成します。
3.AIに任せきりにしてはいけない理由
ただし、注意すべきはAIは“万能ではない”ということ。
AIが出した分析結果が業界常識とズレていたり、数値を誤って読み取るケースもあります。
特に以下の点は人間の確認が必須です。
- 数値の正確性(AIが表中の数字を誤読していないか)
- 季節変動や業界特有の事情(AIが認識していない可能性)
- 企業独自の会計方針の違い
最終的な判断は、AIではなく人間の責任で行う。
AIは“計算の速い相棒”であって、“判断を代行する上司”ではありません。
4.経理DXの次なる一歩へ
AIを導入した経理の世界では、「人間にしかできない仕事」の比重が高まっています。
単純作業をAIに任せ、経営判断やリスク分析といった“本質的な価値判断”に時間を使う。
これこそ、生成AI時代の経理が目指すべき姿ではないでしょうか。
「AIに振り回される経理」から「AIを使いこなす経理」へ。
次回は、月次レポート作成における生成AIの活用法を紹介します。
AIとの協働が、あなたの経理業務をどう変えるか——ぜひ一緒に考えてみましょう。
📚 参考:「企業実務」2025年10月号「決算書を生成AIに読み込ませてみる」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
