不正会計は、発覚後には必ず「なぜ止められなかったのか」と問われます。
しかし多くの場合、不正はある日突然発生するものではなく、徐々に積み重なり、組織の中で「止められない状態」に変化していきます。
本稿では、不正会計が継続してしまう背景を、心理と組織の側面から整理します。
不正は「小さく始まる」
多くの不正は、最初から大規模に行われるわけではありません。
・数字の調整
・タイミングの先送り
・軽微なルール逸脱
こうした小さな行為が出発点となります。
この段階では、
・意図的な不正という認識が弱い
・修正可能な範囲と考えられる
・一時的な対応と位置づけられる
ため、心理的な抵抗が低くなります。
正当化のプロセス
不正が継続する過程では、必ず「正当化」が行われます。
・一時的な対応にすぎない
・他の部署も同様のことをしている
・会社のためになる
このような認識が形成されると、不正は「例外」ではなく「合理的な行動」として扱われるようになります。
結果として、
・行為に対する罪悪感が薄れる
・行動のハードルが下がる
・継続が容易になる
という状態が生まれます。
引き返せなくなる構造
不正が一定規模に達すると、次の問題が生じます。
・修正すると過去の不正が露呈する
・責任問題が顕在化する
・組織への影響が拡大する
この段階では、
・不正を止めるよりも継続する方が合理的に見える
・問題を先送りするインセンティブが働く
という逆転現象が起きます。
つまり、不正は「やめられない」のではなく、「やめるコストが高すぎる」状態になります。
組織が不正を支えてしまうメカニズム
不正は個人の問題として語られがちですが、実際には組織がそれを支える構造を持っています。
・売上至上主義
・短期的な業績評価
・結果重視の文化
これらが存在すると、
・成果を出す行動が優先される
・プロセスの問題が軽視される
・疑義があっても指摘されにくい
という環境が形成されます。
さらに、
・上司が黙認する
・周囲が違和感を持ちながらも沈黙する
・異論が出ない空気が生まれる
ことで、不正は組織の中で固定化されていきます。
情報共有の断絶
不正が止められない背景には、情報の断絶もあります。
・現場は全体像を知らない
・上層部は詳細を把握していない
・監査部門は断片的な情報しか得られない
この状態では、
・誰も全体の異常に気づかない
・問題の重大性が認識されない
・是正のタイミングを逸する
という状況が生まれます。
不正は「見えていない」のではなく、「分断されている」ことで認識されないのです。
「止める人」がいなくなる理由
不正を止めるためには、どこかで「NO」と言う人が必要です。
しかし実際には、
・組織内で孤立するリスク
・評価への影響
・責任を負わされる可能性
があるため、ブレーキをかける行動は取りにくくなります。
その結果、
・誰も止めない
・誰も責任を取らない
・問題が継続する
という状態が生まれます。
なぜ不正は繰り返されるのか
以上の要因を整理すると、不正会計が止められない理由は次の通りです。
・小さな逸脱から始まる
・正当化によって継続される
・途中で引き返せなくなる
・組織文化が支えてしまう
・情報が分断される
・止めるインセンティブが弱い
これらが連鎖することで、不正は個人の意思を超えて継続します。
結論
不正会計は、特定の個人の問題ではなく、心理と組織が組み合わさって生まれる構造的な現象です。
・なぜ始まるのか
・なぜ継続するのか
・なぜ止められないのか
これらを分けて理解しなければ、本質的な対策にはつながりません。
今回の事案は、不正を防ぐためには制度だけでなく、人と組織の設計が不可欠であることを示しています。
参考
日本経済新聞 2026年3月28日 朝刊
KDDI不正会計の実態は 子会社架空取引で過大計上 資金流出先や経営責任が焦点